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文字数 1,443文字

 収入が発生したことにより、今年はもう1ヶ月ちょっとなので問題ないが、来年は所得がそれなりになると、来年は確定申告などしていかなくてはならない。自営の農家なので、家ではそういったものをやっているし、なんとなく理解はしている。なんとなく面倒に思えたが、いつの間にか生活保護から自分が抜けていることを強く感じた。ワールド郎の餌は自分の貯金から購入していたが、今月からは動画の収入で払うことができる。ワールド郎を養う身になったのだ。まだ自分自身が家に養ってもらっているわけだから、胸を張れる状況ではないが、自分だけが消費するだけの穴からは這い出ることはできた。ワールド郎は日向で気持ちよさそうに寝ている。最近は父が作った小さなコタツを軒先に置いている。夜や風が強い日は、ワールド郎がそこに篭っている。コタツの中にカメラが仕掛けてあって遠隔で見ることができるようになっている。ワールド郎は自由に過ごして、池上はそれを完全に監視している。
 ある日、ワールド郎が池上の目の前までやってきて、いきなりゴロンと寝転んだ。腹を出して池上を見ていた。何が起こったのか解らなかったので、池上は突っ立ったまま動けないでいると、ワールド郎はそのまま立ち去っていった。康弘にそのことを話すと
 「猫もお前に馴染んできたんじゃ。腹出す言うことは、安心しとるんよ。よかったのう。」
 池上は嬉しい反面、それを逃したことに後悔した。なぜ、一歩踏み出してさすってやらなかったんだろう!もうそこまで入口がきているのだ!俺は知識がないことで、それを見逃してしまった!あまりも悔しくて、その気持ちを知ってもらいたくて、池上は文字だけの動画を作りアップロードした。コメントは496件ついた。文字だけの嘆き動画だが、ツイッターで拡散された。バズったのだ。チャンネル登録者数が日に日に伸びていく。一週間で五万を超えた。それ共に振込金額が増えていった。評価されること、注目を集めることが、お金に変わっていく。何かを生産したといえば、生産したのかもしれないが、それは役に立つものではない。素人のお遊びだ。しかし、一度、評価されてしまえば、それがお金に変わっていく。米でいうと一トンぐらいの金額が入金された。米を一トン作るのに、父親がどれだけ苦労しているか知っているし、また、その一トンの利益は、売り買いでは出ない。補助金が出て、国からお金を恵んでもらって、なんとか体裁を保てる状況なのだ。池上はワールド郎の動画は一旦止めて、この馴染めぬ、評価とお金に関して強烈に知りたくなった。
 評価、経済、と検索していくと「評価経済社会」という本が出てきた。岡田斗司夫という絵を描くわけでもない、アニメ制作をかつてしていた、オタクの親分といった得体の知れない評論家のような人が書いていた。池上はアニメに全く興味がないので、岡田斗司夫のことが何者かよくわからなかったのだ。しかし、文章は明快で分かりやすく、思想の企みがないので、非常に読みやすいものだった。岡田斗司夫のいう評価経済社会とは、貨幣の価値交換ではなく、評価により価値が決まる新しい経済で、それはすでに始まっていると書かれていた。インターネットの普及で、受け取る側の評価が表に出てくるようになり、その評価で、ものの価値が決まる。価値がつけばお金は後からついてくる。池上は、この説を新しいと受け取っただけでなく、実際、自分が評価のみでお金を得たことを実感しており、すぐにその考えに馴染むことができた。
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