2-4 マネーマン1

文字数 1,314文字

 創業から数年で使い切れないお金と驚くほどの規模の事業をその手に収めることになる。そのあたりから、仕事ではないところでメディアを騒がすようになる。まずは持っているお金。記事が出るたび反響がある。現在の成功者、勝ち組などと称賛を浴びる。発言がネットニュースで記事になる。注目を浴びる。注目を浴びるとさらに、色々な人が寄ってくる。まるでスター扱い。脚光を浴び、輝く自分に強烈な幸せを感じる。金は支え切れないほどある。多少増えようが減ろうが、どっちだっていい。だが、注目はもっと集めたい。そう、良い評価を得たい。かっこいいとか、すごいとか、世界中から言って欲しい。
 2015年、柄澤は自分の影響力を確かめたくなり、少し遅いがツイッターを始めた。始めた時点でフォロアーが三十万人を超えた。「おはよう」などと呟いても反応があった。政治的なことに意見したらテレビで取り上げられた。いいね!がどんどん増えていく。リツートが勝手に伸びていく。自分がものすごい影響力を持っていることに手が震えるほどの興奮をする。自分が考えた紙のカーテンが世に出た時も興奮したが、その興奮を上回る快感が背筋に電撃のようにヒヤっと流れた。まるでそれは初めての射精の快楽、脊髄に媚薬の釘を刺したような強烈な刺激だった。
 もっと、刺激が欲しい。
 会社は大きな組織になった。自分が判断するのは大きな流れだけ。任せられる自分の分身のような従業員も増えたし、自分より新しいことを考えられる従業員も増えた。自分に従う人が増えた。すると自分の時間が持てるようになった。さて、何をしよう?おそらく毎日サラリーマンの月給を使っても死ぬまでに使い切れなぐらいあるのは理解している。興味があるのは、注目されることの、自分の影響力が一番となった。
 試しにフェラーリを買って、ツイッターにアップしてみた。写真とともに「買っちゃいました!」すると「いいね!」がどんどん増える。注目度が上がった証拠だ。自分の行動が注目され、影響を持つ。何か自分の背中が大きくなっていくようで、快楽的なゾクゾクする刺激がある。思わずニヤリとする。これは世に新しい価値を問う商売より、自分にとっては気持ちがいい。評価が上がると、サイトの売り上げも増えた。また、使える金が増える。もっと目立ちたい。翌週、ランボルギーニのディーラーに行って、まとめて三台のスーパーカーを購入。すぐさまツイッターでアップする。「赤、白、青と三台まとめて買っちゃいました。」これはネットニュースになった。「dadaの柄澤社長、ランボルギーニの三色買い!総額は二億円!」ネットニュースのコメント欄には「夢がある!」「うらやましい」と好意的なものもあれば「成金の道楽」「無駄遣い、従業員がかわいそう」「節税か?価値もわからんにとっては猫に小判。」「運転ド下手」と悪意のある意見も多く含まれた。柄澤は悪意のある意見を見て衝撃を受ける。自分は優秀で誰からも好かれていて、良い影響を持っている。会社では誰も自分を批判しない。なんで批判する!自分のお金で好きなもの買って何が悪い!誰にも迷惑かけてないんだ!羨むのは勝手だが、悪意を持たれる筋合いはない!
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