2-15 マネーマン4

文字数 1,748文字

マネーマン4

 「で、旭川さん、あなたが、弊社に入社されることによって、ドロー嬢さんの活動を止めることができると。そんなことをしなくても、私はおたくのお嬢さんに勝てると思っていますが、お互い無駄な疲弊をしますからね。」
 「おっしゃる通りです。競争に決着をつけるためには、まだ資金投入が必要になるでしょうね。それに、それだけかけても、御社が勝てるとは限りません。私の娘は、なかなかにしぶといですよ。」
 マネーマンの社長室で対峙する旭川は、この交渉は勝てると踏んでいた。訳も分からず数十億使うより、肉親である旭川が入社することによって、ドロー嬢との有利な交渉ができる。費用対効果が高い人材の入社を断る会社はない。ましてや、外資系で部長までしていた高スペックな自分。旭川は自信満々で落ち着き払っていた。
 「で、旭川さん、あなたは、娘さんとの交渉役を買って出てくれた訳ですが、だったら入社されるまでもないわけじゃないですか?交渉していただき、結果を出していただければ、報酬は払います。しかし、あなたは、報酬ではなく、弊社に入社を希望されている。これはなぜですか?」
 旭川はここまでの経緯を説明することが適切であるか、ここにくる前に何度も考えたが、有利な交渉材料になるようには思えなかった。部長を辞めて、バンドの追っかけをして、そこで能力を生かそうとしたら、追い出された。自分は会社で集団をコントロールしていたが、その組織を出て、同じようにコントロールしようとしたら、追い出されたのだ。しかも支持するバンド本人から「旭川さん、これ以上、ここにいたら、俺たち、あんたを嫌いになる。」と皆のいる前で最終宣告されてしまった。あんなに傷ついたことはない。あれだけバンドの応援をしてきたのに、そんな別れかたはないだろう。俺は正しいことを言っていたし、リーダーシップを取っていた。俺がいないと、バラバラになるに違いない。あいつらは来年には後悔する。そんな経緯は話すべきではない。
 一方で、マネーマンは全て調べていた。旭川が外資系の会社で、本部からの雇われ外人社長に取り入って、パワハラ営業部長ぶりを発揮して、ハローワークから出入りを禁止されたブラック企業を作り上げたことも知っていた。強引なやり方で結果を出していたが、日本での評判は最悪で、しかし、売り上げだけはあげているので、海外の本社側が黙認していることも知っていた。本来なら絶対に会社に入れてはいけない厄介な人物だ。ただ、組織に属して、権力を行使したい人物に、組織に入れないと言えば全力をもって攻撃してくるだろう。それも厄介である。マネーマンはビジネスに関しては一流である。旭川の価値、正体をすでに理解していたし、使い方によっては、役に立つのでは?と思いながら人物を見て作戦を練っていた。娘の行動を止めさせる能力はあるか?使用済みになり捨てた時に、変な復讐をすることはないか?使うとなれば、何処まで踏み込ませるか?ある程度のポジションを用意して、もう少し頑張れば、言うことを聞けば取締役になれるかもと思わせて、走らせればいいのだろうが、だからと言ってあまり行動させるとdadaにとって良くない。正直、面倒な人材だが、確かにこれ以上、ドロー嬢に金をかけるのはもったいない。
 「正直に言います。私はセールスマネージメントがしたいんです。そこで企業を成長させるのが好きだし、その能力が私にはあります。前職ではサクラメント社、ご存知のように電子岩石計算機のパイオニアで、その分野では世界一の企業です。その会社に勤めて三十年、大学も出ていない私は、そこで営業部長まで上り詰めました。三十年前、サクラメント社の岩石計算機は日本では知られていないものでしたが、この三十年で、岩石計算機では日本でもシェアトップにまで上り詰めました。その功績を認められ、五年前にオーストリアの本社で表彰もされました。」
 旭川は控えめに、しかし自信満々で自己評価を始めた。元来であれば、マネーマンにとって、岩石計算機での活躍など聞く価値もない話だったが、こういった人物は正直、嫌いではない。成功する人間は我儘で強引じゃないと無理だ。好かれる人物では負ける。マネーマンは考える。さて、どうやって使おう?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み