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文字数 1,253文字

 ワールド郎のことを発信し、影響力を持ち、それが金になった。それは自分自身の評価が、価値になったことそのものである。ワールド郎の情報には、受け取る側によっては価値があったのだろう。情報を受け取った側は情報だけでなく価値も同時に受け取って影響を受ける。受けた側は、与えた側を評価する。ここで評価と影響をお互い交換し合う取引が成立する。岡田斗司夫は、それを評価経済社会と名付けた。となると、池上は評価経済社会の一員になったことになる。影響を与え、評価を得たのだ。評価を得た自分が、誰かを評価すると、おそらく、評価でも、価値がある評価を持っていることになるだろう。自分がもっている「いいね!」は評価を得ている分だけ、価値があることになる。気味が悪いような気もするが、賽銭箱に投げ入れるのが、みんな十円玉程度だが、自分は五百円玉になっているということだろうか?
 これまで、ずっと、働きもしない自分は、いつまでたっても社会の外で、全く価値がないと思っていたが、良質な情報を発信したことで価値がついた。すると池上に変化が起きる。自信がついたのだ。今まで自分は劣等だから恥ずかしい。だから隠れようという思考に囚われていたが、知らぬところで評価され、それがお金になっているとなれば、自分が価値がある人間だと少しは思えるようになった。自信は人の表情を変える。眉の間に長く根付いていたシワが無くなった。強張りがないので、大きな二重の目は、非常に穏やかに見えたし、太くつり上がった眉も、頼り甲斐がある包容力の現れのように変化していった。
 奇妙な宗教が「自分が変われば世界が変わる」とラジオでずっと昔から洗脳していたが、これは一理あるのである。強張りが抜けた池上は、雰囲気が変わり、それが周囲に伝わり出した。一番初めに池上の変化に気がついたのは、ワールド郎だった。穏やかになった途端にワールド郎は池上の足元に当然のようにすり寄ってきたのだった。池上は、その瞬間が忘れられない。なにか、新しい世界から招待されたような、非常に暖かい感じを受けたのだ。くすぐるように足元に絡みつくワールド郎、池上はそっと撫でると、思ったより毛は硬質だったが、体温はとても暖かく感じた。
 「ワールド郎、ありがとう。」
 池上は、ワールド郎に感謝した。しゃがみ込むと、愛情を込めて、その小さな背中をさすった。白地に藤ブチ柄のワールド郎は藤柄の尻尾を左右にゆっくりと振る。その尻尾を振る仕草が、これまでの鬱積した過去に対するバイバイに見えた。
 この様子は動画で撮っており、池上はワールド郎によって世界に招かれた感謝の言葉を入れた動画をアップした。これはすぐに拡散した。チャンネル登録者も三十万人まで増えて、動画再生も数千万回にまで登った。コメントもひっきりなしに届いた。
 「ワールド郎、いい奴だな。こっちも泣けてきた。」
 「ワールド郎、玉ついてるな。飼うんなら手術だね。」
だが、ここがピークだった。ゴールにたどり着いたら、物語が終わったら、視聴者は留まらない。
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