2-24ドロー嬢7

文字数 1,009文字

ドロー嬢7

 「あなたの絵は、何のためにですか?あなたの線は呪いですか?日本で起こっていることを知りました。絵は武器ではありません。私の細くなる道はあなたには通じません。静かに眠る前に夢を忘れてください。」
 ヤンマイヤーのメッセージが書き込まれていた。変な日本語だが、ドロー嬢は拒否されたことは理解できた。誰だろう?マネーマンとの争いをヤンにリークしたのは?と考えたが、それ以上に憧れの存在に拒否されたことが、ドロー嬢の心に強い衝撃を与えていた。まるで心臓を握りつぶされて、血が通わなくなったように、足元が薄くなる。何か考えようとしても先が思い浮かばない自分が描く、白い世界に生半可な線で描かれたように、消えてしまいそうである。とても苦しい。
一人でヤンへの言い訳を考えたところで、うまく文章にならなかったし、言ったところでどうやって伝えていいかわからない。固まったように座り込んで、何かを考えようとしても、粉々に割れたガラスをパズルのように組み合わせるように、手を出すと出血するし、どこから始めていいかわからない。始まりを思い出そうにも思い出せない、これからを考えようにも思い浮かばない。
一人重く沈み込んでいると上機嫌な旭川が帰ってくる。
「ただいま!今日さあ、生意気な社長秘書に凄んでやったよ。そしたら黙り込みやがってさあ、まあ、程々にしないといけないが、それでも、言うだけの結果を出している。あいつら、大きな会社だからって、お高くとまりやがって、なんも出来んくせに!まあ、痛快だった。マナ、どうした?そんな世界が終わったような顔をして!登録者が減っているようだな。あと三週間だが、うちの社長に勝てるのか?・・・じゃなかった、dadaの柄澤に勝てるのか?」
 旭川はうっかり口を滑らせた。引きつった笑顔で取り繕ったが、ドロー嬢はすぐに気がついた。こいつはスパイだ。
 「・・私をダシにして、dadaに入社したんだね。あんた、最低だ。」
 「親に向かって、なんて口聞きやがるんだ!あんたとはなんだ!最低とはどう言うことだ!お前は生意気なんだ!だからこうなったんだ!」
 ドロー嬢の悲しみは怒りに変わり、旭川のやましさは責任逃れの逆ギレに変わった。じんわりと湿った嫌な熱気が家の中に漂う。あまりにも重苦しい空気に、ドロー嬢の母、慶子はへたり込んで我慢できずに吐き出した。そこには寄り添わない父と娘、家族がバラバラになった瞬間だった。
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