2-9 ドロー嬢3

文字数 1,480文字

ドロー嬢3

 マネーマンに対する攻撃となったアニメは、同時に作品として評価される。評価は金を生む。大きな金が旭川家の内容を変えていく。まず、借金、ローンが無くなった。ドロー嬢の母、慶子は金銭的な悩みからは解放された。だが、気味が悪いほどの勢いで増えていく金額に足元が覚束ず、何か落ち着かなかったが、だったらと、お金を必死に減らすようにバッグや靴、装飾品など高額商品の買い物に傾倒して行った。
 ドロー嬢の父、旭川は、何かしようと考えていたが、何も思いつかなかった。普通に生活しているだけで、いつの間にかお金が湧いてくる。だが、使うだけの生活をしたところで、何も面白いとは思えなかった。会社という組織を焦がれていた。最終責任を持たずに、地位があり、威張ることができ、思ったことを人にやらすことができる。出来なかったら追い詰める。そういったことがしたかった。パワハラジャンキーとでも言うべきか、とにかく誰かの上に立って強い影響を持った状態で駒を進めるようなことがしたかった。有り余る資産で元いた会社を買い取ってしまおうかと思ったが、最終責任者には成りたくなかった。
 予定してなかった収入が、ドロー嬢の家の中を不穏で落ち着かないものにしていた。ドロー嬢は落ち着いて、新しいものを描こうとしたが、イライラとして、落ち着かない淀んだ空気の中では、そういった気にならない。場所を変えてはどうかと別荘を購入して、そこに一週間ほどいたけど、気持ちに纏わり付いた不純なものが、ドロー嬢の心を重くしていた。
 「復讐みたいなことすると、こうなる。はーちゃんも自業自得だったんだから、あんな成金責めても意味がない。」
 ドロー嬢は悪意を持って行動したことに反省した。悪い感情が行動を引き起こせば、悪い結果しか出ないのだ。渾身の作品だったが、自分で見ても、衝撃的で嫌な感じがする。憧れていた、はーちゃんが、何度も何度も、世界中のどこかで金に締め付けられて殺されるのを見られているのだ。動画を削除してしまおうかと何度も思ったが、しかし、この怒りに満ちた、自分の思いが強く籠った作品は、嫌だけど非常に魅力的で、どうしても消すことができなかった。
 「マナ、ちょっといいか?」
 旭川が部屋に入ってきた。生活はお金で安定しているはずだが、娘に食わせてもらっている点と、会社に所属しないことによってコミュニティーを持たない点で、自信がないのか、どこか存在が薄っぺらく感じる。父親の威厳はなく、冴えないおじさんと言う存在に変わってしまった。あの大きなパパはどこに行ったのだろう?そう思うと、顔を見ることも躊躇われ、端末から目を話さず、声だけで対応する。
 「どうしたの?お金はお母さんが勝手に取ってるみたいだから、程々だったらなんも言うつもりはないよ。」
 「お金の話じゃない。お金はお父さんだっていくらかは個人的に持っている。提案があるんだ。ここまでマナの才能で動画がビジネスになっている。だから、これを会社にしないか?代表はマナでいい。才能の持ち主だからな。ただ、運営をお父さんに任せて欲しい。今のままだと稼ぎがほぼ税金に変わる。法人化すれば税金対策になるし、効率的に事業を行える。お父さんは知っての通り、世界的な企業の日本法人の部長までやったんだ。それなりの能力を自覚している。お前の才能をもっと活用するためには、営業力が必要だ。」
 大金が入ってくると、何も作れない本質を理解できない人間が金に釣られてやってくる。それが一番の害だと思っていたが、それが実の父親だと思うと、ドロー嬢は人生に対して絶望する。
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