2-23 マネーマン6

文字数 1,552文字

 マネーマンは敵が大事にしているものを理解すると、必ずそこを攻撃する。相手が嫌がることをし続けることが勝負であり、勝利への道と理解している。戦ったもの同士の讃え合いなどない。雌雄を決する熾烈な戦いに紳士協定などあり得ないと考えている。
 マネーマンはチェコスロバキアに来ていた。ヤン マイヤーは東洋人から出資の話を聞いて、急な話だが、内容は悪くなく、しかし、なぜ自分に話が来たのだろうかと訝しげに思っていた。
「私の絵は動いてこそ価値があります。しかし、あなたは私にインテリアのデザインに私の絵を使いたいと言う。インテリアに書かれた絵は動きません。」
「いえ、それでいいのです。動く絵は本物を見に行けばいい。これはあなたに用意された入り口です。カーテンにプリントされたあなたの絵を見て、それが動く様子が見たいとなれば、アートに対して関心が高まる。これがあなたにとっての価値。我々は、話題が欲しい。あなたは日本のアーティスト、ドロー嬢にコンタクトを取った。それで注目が集まっている。その影響力を我々は使用したいだけです。そこが我々にとっての価値。そんなに難しい話ではありません。」
 ヤンは二十代、三十代を無名のまま過ごした。四十代、最近になって取り上げられるようになった。有名であることは、多く目に触れられることは、話題になることは、絵の技術そのものよりも重要であることを理解している。いくら良いものを製作しても、観覧客がいないと、意味がない。それは十分理解している。影響力を持つことによって、こういった大金をもったお客が増えてきたのも間違いない。影響力はお金である。
 「わかりました。協力しましょう。」
 「ありがとうございます。ただ、少し条件がありまして・・・」

 秘書の田代は言われた金額をチェコスロバキアのヤンに送金するように手配したが、これを広告宣伝費として上げる額なのかと経理部と話し合う。広告宣伝費の利益に対しての割合は決められているが、ドロー嬢の一件から、それは大幅にオーバーしている。しかも、その広告宣伝費を払った分だけ売り上げが上がっているかと言えば、上がってない。むしろ、はーちゃんの一件でイメージダウンもあり売上は下がっており、ドロー嬢と争いも一般の人からすれば、あまり好ましいものでもない。利益率が下がると、株価が下がる。D dadaの評価が落ちれば、在庫のインテリアはゴミに近づく。田代は社長にどうやって報告しようか悩んでいた。
 そんな中、装備部だけが売り上げ増の結果を出している。dadaの名前が表に出ない、目立たぬ装備品なので、販路さえ出来れば、流通量は増えていく。一般消費者相手ではなく、販売店相手なので、クレームも直接受けることはない。また、前時代的な張り付き押し売り営業だが、市場に流通する量は増えるし、増えると評価が上がる。装備部部長の旭川の戦略は結果を出していた。
 「田代さん、装備部でまた、辞表が出てます。で、募集をしたいと旭川部長から連絡ありまして、確かに結果出てますが、まだひと月も経ってないのに三人も辞めたんですよ!あの人を追い詰めるような軍隊式の朝礼を見ると気分が悪くなります。」
 田代もフロアの一角で行われる別時代の封建的な朝礼には辟易していた。「どういうつもりだ!言ってみろ!」なんて旭川の怒声が朝からフロアに響いている。そりゃ営業員も辞めたくもなる。
 「旭川部長、ちょっといいですか?」
 「何でしょう田代さん?」
 「少しdadaのカラーと違うことをされているようですが。」
 「ああ、大丈夫です。そのうち皆んな慣れますから。それに結果が出ているし。」
 「結果も大事ですが、調和も大事です。」
 「・・なに、あんた、眠たいこと言っているの?これ、ビジネスでしょ?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み