2-19 マネーマン5

文字数 1,611文字

 「今回、特命部長を拝命した旭川です。私の理想は合理的で無駄のない営業活動です。無駄だと思えば、改善してもらいます。その権限を私は頂いております。すでに特命任務で成果を上げております。よって、販売面での強化に関して成果を出すシステムの要として、機能していく所存です。よろしくお願い致します。」
 社長からの評価を追い風に、旭川は見晴らしの良い高台に立って見下ろす気分で、部下二十名の前で就任挨拶を行う。ドロー嬢を抑えるミッションを追いつつ、新事業であるインテリアの装置部の部長となった。装置部とは、インテリアにおける見えない部分の機械的な製品の販売になる。具体的に装置とは電源コンセント、配線、間接照明の取り付け部、据付家具の金具などにあたる。目立たぬところだが、機械的な理解、電気のことが分からないと業務に差し支えがある。現状では下請けの業者に丸投げしている部分だが、それを自社でできないかとマネーマンが言い出して、そこに輸入機械販売営業をしていた旭川が現れたので、はめ込んでみたというところである。
 dadaパレスにとっては、実験部門であって、失敗したとしても、もとに戻せば済むことである。今はエアコン取り付けなどを行う町の電気屋に任せているが、価格、出来上がり品質が一律ではないのと、追加費用がかかったり、思ったように設置できてないことがクレームで起きたりしている。計画としては、業者が立ち入らずとも、購入したユーザーで取り付けができるパッケージを開発して販売できるところまで持っていきたいが、電気の工事に関しては電気工事士の資格が必要であったり、据付家具を設置するとなれば、工務店並みの大工仕事が必要となってくる。また、建物とは千差万別で統一規格がないので、現地合わせが一般的である。初めから部門として無理があるが、ユーザーの声としては、知らぬ下請けの業者を家に入れたくないというのは、理解できる要望でもある。
 「とりあえず我々がすべきことは」
旭川の一言に装置部の営業員が注目する
 「仕入れたものを市場にどんどん投入することによって、市場を拡大し、活性化させることだ。ビジネスは売り上げた方が勝ちだ。勝ったならば、運営はどうとでもなる。必要か必要でないかは問題ではない。重要なことは売り上げだ。この一ヶ月で販売数を作り上げる。取り付け方法だとか、組み合わせは購買層が考えることであって、我々は売ること優先で走る。今週のテーマはマルチタップを千台、付随して延長コードを500本を売り切る。売るための相談なら、受けます。以上。」
 旭川の前時代的な売り上げ至上主義の言葉を聞いて営業員の八割がやる気を無くした。二割は売ればいいという言葉は簡単に思えた。どんな手を使っても出荷すればいいのだから、それが成果となるならば、理論も筋道もいらない。ただ売るだけ。結果さえ出せば残ることができる。旭川のサポートとして様子を見ていた秘書の田代は、あまり良い予感がしなかった。ただモノを売るだけ、その競争、それの何が楽しいのだろうか?田代は同時に、わがままなマネーマンの言いなり、マネーマンの為だけに働く、それの何が楽しいのだろうか?と連続して考える。何も楽しくない。だから仕事なのだ。と自分に言い聞かせる。
 三日も経つと旭川は軍隊式の朝礼を始め、他の部署に見えるように一人一人を評価し始めた。あくまでも丁寧な話ぶりだが、相手をゆっくりと追い詰める様子に、周囲は辟易した。あれならマネーマンの方がマシだ。
 「考えて前に向いて取り組めば、こんな結果は出ないはずです。結果が出てないのは、考えてないか、後ろ向きなのか、取り組む意思がないか、やり方を間違っているか、素養がないだけです。いいですか?私は多くは望んでいません。結果だけ出してもらえばいいんです。わかりますよね?じゃあ、検証しますので、一つづつ簡潔に解りやすく説明してください。」
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