3-13選挙

文字数 1,866文字

 「ご苦労さん、気持ちよかっただろう?準備ができているが、どうする?」
 街宣車の中に入るとカーテンで外から遮断された後部座席でエイプマンがレイプマンになっていた。無理矢理ではないが、女にペニスを咥えさせていた。エイプマンは女の頭をくしゃくしゃに撫でていた。だが、ナイスマンはそれを異常とは思えなかった。火がついた様な性欲が胸から暴れだしそうになって、体の端から熱くて焦げ付きそうになっていた。
 「おねがいします!」
 「よーし、じゃあ、奥に女を待たせてあるから。でも、手か口だけにしろよ。車が揺れると不審がられるからな。やっぱり、君はこっちだったんだな。素質があるよ。」
 大勢の注目を浴びて、演説していると、自分の存在が無限に開いていき、体の中心から巨大に膨らむ様な気分になる。自分の存在が大きくなると、何かよくわからない衝動、強い性欲が胸のうちから溢れてくる、息苦しいほどの渇望、とにかく、出さないとどうにかなってしまいそうだった。その衝動が自分だけの異常なものと感じていたが、エイプマンの様子を見て、ここでは普通であることがよくわかった。人前に出て注目を浴びるのが気持ち良い人は、自分が無限に広がる心地よさが性欲と繋がる。自分の存在感を広げたくなるのだ。広げるとは、子供を、分身を撒き散らすことだ。歴史上の支配者は側室をもって、自分の分身を作りたがるが、あれは、得た評価を持ち続けるための手段だったんだろう。英雄は色を好むのではなく、色が必要なのだ。
 奥の仕切りある座席に入ると、裸にブラウスの四十代の女が待っていた。ナイスマンは当たり前の様に抱きつき、女の口を吸って座り込む。舌を奥へ突っ込み絡ませて、下も本当は挿入したかったが、そこは我慢して、女が咥え、舌が這うのに任せた。とにかく早く出さないと身体中の熱で胸が焼き着きそうになったので、女の頭を両掌で鷲づかみに抱え込み、女の細い首が折れるほどに思い切り前後の揺らした。愛情なんて一欠片もない野獣の様な性暴力といったところだが、ナイスマンにとってはそれが心地よかった。体の芯から痺れる様に火照っていたので、すぐに達そうとした。射精の瞬間、自分の存在が無限に膨らんできた。思わず声が出る
 「お、俺様は!」
 俺様は一体なんだろう?一瞬、虚になる。だが、その不安をふり切るために、有り余る熱を全て振り絞りたいので、尻の奥から太いものが引き抜かれるような大きな射精の衝動が体を突き抜ける瞬間、奉仕する女の顔を思い切りビンタした。肉を断ち切る様なビンタ、吹っ飛ぶ女、飛び出す精液。欲が満たされた幸福感がナイスマンの中で音のない白い爆発をする。グッタリと沈み込み、チラと吹っ飛ばされた女の白い太ももをじっと見る。深く息を吐いて女に向かって「ごめんなさい。ちょっとやりすぎました。」と脱いだズボンのポケットから財布を出して、女に札束を渡す。女の方はゆっくりとそれを受け取り「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」と伏し目がちにノソノソと服を着始める。
 「おお、出したらジェントルマンになれる。こりゃ、ナイスマンだね。」
 エイプマンがカーテンをめくり、笑顔で話しかける。ナイスマンは下半身剥き出しのまま、褒められた様に照れてしまう。
 「いえ、まあ、でも、よかったです。」
 「そうだろう、演説の後はやりたくて仕方なくなるからな。」
 「いえ、そうではなく、演説している時、やりたくなったのを異常だと思っていたんですが、幹事長は肯定されました。自分は変態なのかと思ったものですから、そうではないと分かって、よかったです。」
 「ああ、そうか、今更気がついたのか、政治家のほとんどは、街頭演説の後、やりたくてしかたなくなるんだ。君は、政治家に向いているんだよ。ここでは、ナイスマンになれるんだよ。」
 ナイスマンになれる。政治家が天職だったのだ。もう、やめるわけにはいかない。こんなに胸が踊り、気持ちがよく、興奮することは他にない。国を沈めてでも、政治家になり、政治家で居続けなくてはならない。落選なんてしたら、せっかく始まった人生が終わる。
「幹事長、私、死ぬ気で頑張ります。何としてでも議員になります!」
「よく言った!じゃあ、次の演説会場に行くぞ!夜は夏祭りに3件ほど顔を出す。浴衣も準備してある。夜はなあ、見えないから挿れてもいいぞ。」
 ナイスマンの顔が輝く様に機嫌良くなる。満面の笑みだ。そんなナイスマンの素直な感情表現にエイプマンも親しみの情が湧く。これで党内でのナイスマンの評価が上がった。
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