2-1 ドロー嬢1

文字数 1,296文字

ドロー嬢1
 旭川マナは高校二年生になっていた。しかし、ほとんど学校には行ってない。することがあるのだ。家で一日中絵を描いている。絵といってもペンで紙に書くのではない。タブレット端末にタッチペンで絵を描いている。同じような絵を少しずつ変えて、絵を動かす手描きアニメーションを作っている。それをドロー嬢の名前でユーチューブにアップロードし世界に発信している。チャンネル登録者数は四十万人を超えている。再生回数は一千万回越えが一つほどあり、それはワールド郎が歩いて寝そべってゴロゴロするアニメ動画である。
 それまでも手書きアニメで視聴回数はそれなりにあったが、ワールド郎の動画で火がついた。一度有名になれば、見られる機会は数倍に膨れ上がる。もともとドロー嬢のアニメの質は高い。内容としてはコマ数が多いディズニーのように滑らかなものとかではなく、背景は白だが、視点を変えながら動きを追うので平面の絵が、非常に立体的に見える凝ったものだった。カメラが円を描くように被写体を追うが、被写体も同時に動く。大方のアニメだと背景が固定になり、そこでキャラが動くというパターンが多い。ドロー嬢のアニメはポリンゴン画像視点の手書きのようなもので、描写力と立体展開力がないと書くことは難しいし、時間がかかる。あり得るといえばあり得るアニメだが、あまり見ないものだった。よって、もう少し見たいという視聴者の心を掴みやすいものになった。面白いオチやハプニングなどないが、地味に興味深い映像。こういったものは息が長い需要ができる。また、動画の評価に関しても、ドロー嬢は一切コメントしない。ドロー嬢として何か書くとしたら絵しかないと決めており、それが見ている人により魅力を与え、熱心なファンを作ることになる。
 ドロー嬢はイルカの絵を描いていた。イルカが泳ぐ姿を水中カメラで追うのだが、その水中カメラを水の抵抗なしでスムーズに動かすのか、水の抵抗を受けてワンテンポ遅れてカメラを動かすのか悩んでいた。被写体を追うのに、多少の遅れが出た方が、水上に住む人が見ると、異世界のリアリティーを感じることができるのではないか?と思っているが、その遅れを描くとなると、さて、どうやってワンテンポ遅らせるのかを考えつつも、水の中で自由に動き回るという爽快な感じを出すのであれば、逆にカメラの動きが速い方が、今までにない感覚であり、もう少し見たいと思うのではないかと考えてみた。
 「おはよう、マナ、絵を描いているのか?俺、ちょっと出てくるから。」
 ドロー嬢は父の問いかけに無視をする。旭川は無職となっていた。しかも借金も作っていた。ロックバンドのファンクラブのスターアイランドという企画に参加して、会社を辞めた。スターアイランドの運営として仕事をしていたのだが、これまでの会社での振る舞いを持ち込み、みんなから嫌われ、追い出されたのだ。とはいえ、スターアイランド制のノウハウは理解したので、それを自分でやろうとしたが、思い切り失敗したのだ。同じ企画を持ち合わせていても、池上、ワールド郎主のように評価がないので誰も相手にしてくれなかったのだ。
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