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文字数 1,289文字

 「ダイスは、一定のファンにすごく評価されてます。なんで評価するかというと、人生で大事な時に、ダイスの曲に助けられたり、励まされたりして、その感謝が大きな評価になっているんです。が、しかし、その大きな評価は直接お金になっていません。曲の影響力はファンに伝わっているのに、ファンの感謝の影響力がダイスにうまく伝わってないんです。」
 やすひろとジョーは酔ってはいたが、真顔で聞いている。旭川の抱えるもどかしさを説明してもらっているようで、ダイスと会うための道具に過ぎなかった池上が、影響力を持つ人にすっかり変わっていた。
 「それはわかってる。つまり感謝をTシャツの枚数じゃなく、直接金の枚数にしろってことだろうけど、ただ、お金をもらうわけにはいかないだろ?ファンクラブはもうやってるよ。あれもいい稼ぎにはなるけど。あんまり高い価格設定をするわけにはいかない。」
 「そこですよ。ファンクラブって、一律の会費でしょうけど、熱量が多い人と、それなりの人が同じでいい訳がない。ファンとしてダイスに影響力を持つ人は、それなりに評価されてもいいんです。僕がファンクラブに入ったのと、長年ファンクラブに入って、お金をいっぱい使ってる旭川さんは同じファンではないんです。旭川さんは上級ファン、僕は新人ファン。ダイスは歴史があるから、同じファンではないんです。」
 「ファンは一律って建前ないと、不平が出るんじゃ?ファンクラブってそういうもんだろうし。」
 「じゃあ、ファンクラブなんて、やめてしまいましょう。今、評価がある人たちはオンラインサロンってのを始めています。それは会費が高く、しかし、サロンに入らないと情報を得られない。情報が欲しい信者みたいな連中が集まって、評価、影響力がある中心人物に寄付しているんです。これは何かと言うと、近づくことをお金にするってことです。会員制のバーに入って高い酒に酔いしれるようなものです。しかし、それでは、ダイスを男芸者にしてしまうことになる。そうではなく、ダイスと一緒に何かするために、お金を持ち寄る状態を作るんです。ダイスは常にファンからゲスト扱いを受ける。それで、要望があれば一緒に何かを造る。その必要なお金は、持ち寄られたお金で行う。歌を、音楽を売るのではなく、ダイスの存在に、影響力にお金を払ってもらうようにするんです。」
 やすひろは考え込む、ジョーはあまりいい顔をしなかった。音楽を売るんじゃなくて、キャラを売る。それはロッカーではなく、軟弱なテレビタレントだ。それに今更なれという。
 「今更、俺たちゃ、飼い猫やキャバ嬢にはなれんよ。媚び売って、金を貰うなんて、ロッカーがすることじゃない。それやってたら、今頃俺たちゃ、金はあっただろうよ。それしなかった、意地通したから、貧乏ロッカーな訳で、なあ、ジョー。」
 「ああ、そうだ。でも、そうなれたら生活は楽だろうね。ただ、飢えがなくなるとシャウトできない。ああ、俺はベースだから関係ないか。」
 呆れたようにジョーが言う。やすひろは少し笑った。池上はやはりそうきたかと、思ったが、返しは話す間に考えていた。
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