2-10 ドロー嬢3

文字数 1,198文字

 「それ、必要ない。私がこれから一人で生きていくのに十分なお金があるし、もう仕組みは出来ている。私にとってお金は必要じゃないし。お父さんはお父さんで、自分のやりたいことすればいいじゃない。」
 「・・・お前、あいつに喧嘩売っただろう?dadaの柄澤に。個人的には知らん奴だが、ああいった奴とどうやって対峙するかは、俺は様々なトレードを経験しているから理解している。あいつは黙ってないぞ。ああやって前に出る経営者は、自尊心が高い、評価に敏感だ。金の力使って、復讐を考えるだろう。俺には分かるんだ。俺はマナの父親だ。守る必要がある。」
 守る?無職のおやじがどうやって?母を殴って金をせびるような小さな男に何ができる!学生の娘に食わせてもらっている分際で!ドロー嬢は振り向いて、口を開いて、思ったことを大声で浴びせてやろうと思ったが、それをすると後戻りができないだろうと、今は止めた。
 「お前は、パパの顔も見なくなった。しかし、大事な娘に変わりない。あいつのユーチューブ見たか?」
 「・・・柄澤、ユーチューブ始めたの?」
 「何も知らないんだな。もう一カ月前だ。初めは自分の事業のことを説明したりしてたが、それでも広がらなくて、今度はスーパーカー自慢を始めた。普通はそんなことしてもチャンネル登録者は増えないが、ここ最近、五十万を超えた。あいつは金を配り始めた。登録したら抽選で百万円だ。で、ついに宣戦布告だ。」
 「・・誰に?」
 「ドロー嬢、つまり、お前にだ。はーちゃん動画に対する復讐だ。言われのない誹謗中傷を受けた。元恋人の死に自分も傷ついている。自分は被害者だ。どっちが正しいかは世間の評価が決める。今、お互い、チャンネル登録者は五十万人だが、年末までに百万人達成した方が、正義ってことになるって、金使ってユーチューブ広告で宣伝してるぞ。だから、お前の登録者、増えてるだろう?七十万まで行ってるじゃないか。アンチ柄澤がお前を応援しているんだ。これは勝負だ。負けたら評価を下げることになる。」
 最近、視聴回数が伸びているのは知っていたし、応援コメントが増えているのもなんとなく気がついていたが、そこまでのことになっているのは気がつかなかった。知らないところで勝手に勝負を始められて、アニメに関係ない人が視聴して、違う評価をしている。知名度が広がると言うことは、私の動画を見る人が増えると言うことだ。見る人が増えれば、評価が上がる。評価が上がれば、見る人が増える。いくら頑張っても、簡単に出来ないことだが、それをマネーマンが金を使ってやってくれる。一見、自分の利益になったように思えなくもないが、一番嫌いな人間に借りを作ったことになる。これはこれで屈辱である。すぐにでも返したい。感情に大きな影響を受けた。ドロー嬢は椅子に座ったまま、体を捻って後ろを振り向く。部屋の入り口で立ちすくむ旭川がニヤリと笑う。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み