2-22 マネーマン6

文字数 1,446文字

マネーマン6

 「旭川さん、仕事はどう?売り上げの方は見ているけど、良い感じじゃない?お嬢さんも大人しくなったみたいだし。」
 「はい、私の思うように展開しております。売り上げの方は、半年後には倍に出来ます。道筋は出来ております。」
 にこりと笑うマネーマンに自信ありげに結果を報告する旭川。評価されるということは、単純に気持ちいい。それがネット上とかではなく、権威ある人間に目の前で特別だと認められ、同じ組織内の人間から羨望の眼差しを送られる。自分が特別に秀でていると実感できることが嬉しいのだ。旭川はようやく自分が失っていたものを取り戻した気がする。
「それは、まあ、結果として置いておくけど、それはそうと、ドロー嬢、旭川さんのお嬢さん、なんか、チェコスロバキアの芸術家から認められたって噂聞いたけど、それ、結構すごいことなんだってねえ?」
 自分の出した商売の結果はスルーだった。で、済んだはずの娘への活動制限ミッションに話が向かう。旭川はマネーマンの傲慢さを強く感じた。相手の存在を小さくするための話逸らしをやられた。旭川も部下によく使っていた。こいつ、なめてやがる。無性に腹がたつ。
 「よくご存知で、そうです、娘はヤンを心の師匠としてます。その師匠からコメントをもらったことに大変喜んでおります。おかげで、社長との競争のことは忘れて、新しい作品描くんだって張り切っております。」
 「・・・そうなんだ、俺との競争なんて、ちんけな話に成り下がったってわけか。俺はねえ、そんなお嬢さんの気まぐれで、非常に不快な思いをして、大金を使う羽目になった。で、その仇の親を雇うまでしている。まさに勝つためになりふり構わず全力だよ。なのに、相手は逃げて、何も反省もせず、謝罪もなく、自分の夢に向かったってことだろうねえ。そんな自分勝手でいいんですか?あんた、親だろ!」
 まさに言いがかり、しかし、真っ赤な顔をして怒っている。ああ、社長をこんなに怒らせやがって、俺が頭を下げている権威に、マナのやつが歯向い、嫌われている。本当は家族を大事にするべきなのだが、なぜか、旭川は社長の言うことも解らなくもないと、立たされたままで思ってしまった。俺に顔も向けずに、養ってやってるんだって偉そうにして、まだ学生のくせに、俺より成功しやがって!俺は、サラリーマン以外、何も成功しなかった。崇めていたダイスにも追い出された。なのにマナは柄澤社長を本気にさせ、世界的な芸術家からも目をかけられている。ただ、あいつは絵を描いていただけだ。まだ、一人前になるのは早すぎる。俺が成功した後で十分じゃないか!背伸びしやがって!
 鬱積の責任は自身にあるが、それを認められない旭川は、自分の娘の態度が悪い部分を原因とした。だが、同時に、小さな頃のマナを思い出す。絵ばかり描いていたが、自分についてきてくれたり、笑ってくれたりという、良い思い出が湧き出す。どうしても嫌いになれないが、どうして、もっと、素直じゃないんだろう、従純でないのだろうと自分の素直な感情を変形させようとしていた。
 「・・娘が社長に不快な思いをさせてしまったこと、大変申し訳ございません。」
 「べつに、旭川さんは謝らなくてもいいよ。もう済んだことだし。それに、旭川さんは、ミッションをクリアしている。その点は認めています。だが、私の気が済まないのも事実。あなただって女子高生に馬鹿にされたら、ただじゃすまないでしょ?大人としてお仕置きの一つはするべきだと思いませんか?」
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