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文字数 1,407文字

 「それ、やるべきだ。俺、ずっと思ってたんだ。ダイスに憧れていたけど、ずっと、一枚壁があったんだ。ライブで直接聞くときは、その時だけは壁がないんだ。だから無理してまでライブに参加してたんだ。ライブの外ではずっと、壁があって、求められるのはチケット買え!Tシャツ買え!今更のCD買え!ばっかりだ。あれはモノだ。俺は買い物するためにライブに来るじゃないっていつも思っていた。正直言うと、チケット七千円じゃなくて、十万ぐらい払いたかったんだ。俺はそれだけ払えるんだ!俺にとっては、ダイスのライブってのは、それだけ価値があるから、払いたいんだ!しかし、それが出来ないから、事務所が喜ぶだけのモノを買う羽目になっていたんだよ!池上、あんたが言う影響力ってのを、俺たちコアなファンが持てるってことだろ?評価を自分で好きなように出来るってことだろ?それだったら、俺は、ダイスのことを一番に評価してるってことを、ダサいファンの連中に見せつけてやりたい。で、ライブの乗り方とかみっちり上級ファンってことで、お墨付きもらって、ただ、悪ふざけみたいにきている連中に教育してやりたい。それを、ダイスに知って欲しい。そうすれば、俺は、ダイスにとって、影響力がある存在になれるってことだろ?俺の強い思いってのを知ってもらえるってことだろ?それはすべきだ。こんだけ長くやって、歴史があるんだから、ファンが影響力持ったって、いいだろう?だって、ダイスを伝説にしたのは、俺たちが盛り上げたからってのもあるんだ。ダイスがいるからが一番だけど、長年のファンの俺たちが支えてきたってのは、ダイスに知って欲しいし、他の若いダイスファンにも知って欲しい。じゃないと俺にはTシャツしか残らん!」
 これまでの鬱積を吐き出すように旭川が吠え出した。その熱い語りにやすひろとジョーは固まったように聞き入っている。ダイスとして、ファンはありがたいだけの存在じゃないことをこのとき見せつけられたような衝撃を受けた。ファンはダイスのメンバーなのだ、一緒にライブを、曲を、音楽を、ダイスを作ってきた仲間なのだ。仲間にはそれぞれ強い思いがあったのだ。それをあまり気にせずに、勝手に喜んでいるだろうなんて思っていたところもある。それに自分たちが、いつの間にか音楽を仕事としてこなしていたことも気付かされた。これじゃあ、ロックじゃない。ロックは思いを分かち合う手段だったはずだ。気に入らないことに一緒に吠えて、世界を変えようとする衝動だったはずだ。それが、曲を演奏してお金に買えるという流行歌手と同じシステムにすっかり入り込んでいたことに気がついた。
 「旭川くん、ありがとう。ファンって、俺たちが思っている以上に近くに居たんだな。ロックンロールサーカスは見世物じゃなかったんだな、仲間との祭りだったんだよ。ずっと、そんな祭りしてきたはずだけど、いつの間にか、見世物にしてたんだな。」
 ダイスとファンが熱く語り合っている。池上は自分が言わんとしたことを旭川が言ってくれ、それにダイスが理解を示したのを見て、自分の思っていたことが正しいのと、ファンが思ったより影響力を持ちたがっていることを理解した。こうなれば説得の必要はない。彼らから評価された自分には影響力がある。その影響力を駆使して、ダイスとファンを金を作る仕組みに組み込んでしまえばいい。もう、自分はただの優良消費者ではない。
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