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文字数 1,255文字

 ライブハウス内は熱気が溢れ、人がごった返していた。格好はダイスのサイコロマークが入ったTシャツやら革ジャンを身につけていた。あとサイコロ柄のニットキャップ率が多かった。帽子を脱ぐと髪が薄いだろう。池上は今までの人生で踏み入れたことのない、高齢者のライブ会場に身を置いていた。視聴回数が稼げそうなので、動画を撮って世に見せたかった。薄暗い中、アルコール片手に、初めてあった旭川と肩を並べてダイスの登場を待っている。変な感じはしたが、悪くはなかった。
 突然の大音量のギター音とともにステージにライトが浴びせられ、ダイスのメンバーが出てきた。メンバーはスリムで、スタイルは良かったが、顔にシワが刻まれていた。リーゼントにしていたが、歳をとると顔が大きくなるのか、何か不自然だった。ただ、声はよく響いたし、演奏も何十年もステージをこなしてきただけあって、文句の付け所は無かった。問題は、池上の知らない曲ばかりだったことだ。大音量でみんながのっているのに、自分だけ曲を全く知らず、合わすことができないので、見知らぬ村の祭りに連れてこられたようで、若干苦痛に感じた。
 結局、池上が唯一知ってる「激しい嵐」は演奏されなかった。演奏が終わり、ライブハウスの待合に出ると、メンバーが並んでグッズを売っていた。ライブのDVD、CDや、ここでしか買えないと書いてあるダイスのTシャツ、タオル、その他小物。池上は何か記念に買って帰ろうかと見たが、どれも価格が高めだった。帰って動画でダイスを探して聞けばいいかと思っていたら
 「池上さん、何も買わないの?」
 「ちょっと、高いし、あんまり知らないから。」
 「まあ、初めてだからね。でもさ、ダイスのメンバーはライブだけじゃ食っていけんのよ。こういったグッズ販売が収入源になっているから、ファンはねえ、しっかり買うんだよ。先々週は大阪だったけど、俺行ったし、買ったよ。」
 「Tシャツ、そんなに要らんでしょ?転売とかするんですか?」
 「違うって、これ、グッズ買ってダイスを支えてるの。還暦過ぎてロード出てるってことは、ライブしか収入ないんだよ。ファンができることは、グッズ買ってメンバーの生活を支えることだけだよ。俺もTシャツとかタオルとかそんなに要らんから、部下とかに配っているよ。」
 旭川が一枚七千円するTシャツを束で買っているのを見て、池上は何かすごく無駄なように感じた。スターに憧れて、そのグッズを買っているのではなく、流行りが過ぎたスターを、スターより収入がある大人がグッズで買い支えている。評価が金になっているのを目の当たりにしたが、何か歪んでいるのだ。すごく無駄に感じる。
 「旭川くん、今日も来てくれたんだ、いつもありがとうね。」
 ボーカルのやすひろが汗ばんだ顔で旭川に話しかける。そりゃ、財布から毎回十万円出しているんだから、上得意もいいところだ。
 「お疲れ様です、やすひろさん。今日は、ワールド郎チャンネル連れてきたんすよ。」
還暦すぎたやすひろは目を細めて池上をじっと見た。
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