2-7 マネーマン2

文字数 1,411文字

マネーマン2

 「なんで、俺に対する同情がないんだ!元恋人が自殺したんだぞ!俺ほどの人間の周りで不幸があれば、みんな心配で駆けつけてくるはずだろう?」
 柄澤は必死で批判を消して回っている秘書に対して駄々をこねるように声を上げる。「あんたが消耗品のように女を扱ったから、まじめなはーちゃん自殺したんだよ!」と、はーちゃんと同年代の女性であり、はーちゃんと友達でもあった秘書は心の中で罵倒する。しかし、このマネーマン(古くからの側近たちは柄澤のことを裏でそう呼んだ。)は金儲けだけが取り柄のクソ人間だ。はーちゃんを話題作りの為に付き合って、しかし落ち目のタレントと付き合っても面倒が増え評価が上がりそうにないからって、サッサと捨てて、今度は読者モデルを側に置いた。お金があるからそりゃ、女も寄ってくるが、騙される女も自業自得でもあるが、それでも人間だ。もっと大事に扱うべきだ。もしくは消費する様に利用してはならない。秘書は女の代表として怒りを抱えていたが、柄澤が稀代の実業家であり、その存在で、自分を含め、多くの人が生活できていることは間違いない。自分はマネーマンの支配下にいるのだ。柄澤は大きなお金を産むことができる。秘書自身もその恩恵を預かっている。
 「それと、なんだよ、この動画!はーちゃんがdadaカーテンに締め付けられて死ぬってアニメ、これ、俺に対する悪意だろ?早く消せよ!こんなことは許されないんだ!田淵さん、秘書の仕事しろよ!俺が自由に動けるようにするのが、あんたの仕事だろ!」
 締め付けられた鶏のように首筋立てて煽るマネーマン。秘書は衝動的に殺意さえ抱いたが、我慢しようとした。だが、私の名前は田淵ではなく、田代で、間違えているし、はーちゃんは良い子だったし、この金儲け以外はクズのような奴に命令されたことがムカついたので、仕返しにイライラさせてやろうと思った。マネーマンを金で勝負がつかない土俵に上げてやるのだ。秘書の田代春香は瞬時に罠を考えついた。
 「ユーチューブに削除依頼かけても、逆に認めることになりますし、もう一億回再生されています。今更引っ込めると逆に目立ちます。社長が出来ることは、ユーチューブで勝負してドロー嬢に「いいね!」で勝つことだけです。動画では評価が多い方が正義ですから。でも社長はアニメが描けるわけでもないし、一億回の再生回数は追いつけません。だから、こっちが有利な勝負を仕掛けてください。あと二ヶ月、2017年の内にチャンネル登録者数百万人に先になったほうが勝ちという勝負を投げかけるのです。ツイッターの登録者が今七十万人いますから、それを持ち込んで、あと三十万人を登録させれば良いんです。目立てば良いんですよ。」
 田代の提案に、マネーマンは顔をパッと明るくさせた。目的や勝負、期限という言葉が出ると、一流のビジネスマンとしての才覚がそれに反応する。
 「それ、いいね!dadaの宣伝にもなる。で、俺のイメージアップに繋がるし、メディアも騒ぐだろう。ナイスプレー田淵さん!いや、田代さんだっだ。名前間違えてたね。ごめん」
 間違いにようやく気がつき、すぐさま謝罪する。こういった素直さがあるので、マネーマンのことを心底嫌う従業員は少なかった。田代も難題をふっかけたが、おそらく、マネーマンは挑戦し、ある程度、軌道に乗せるだろう。とはいえ、動画の評価に対してどうやって対抗するつもりだろう?
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