3-15評価乞食の宴会

文字数 2,413文字

評価乞食の宴会

 ナイスマンが当選してから初めての国会が開催される。国会議事堂の前で記者に取り囲まれ、笑顔で議員バッチをつける。ナイスマンは希望に溢れていた。何をするのかはわからないが、官僚から質問の台本をもらって、それをしっかりと練習した。出番は作ってもらえるとのこと。政治記者からも質問があるが、何を言っているのかよくわからない。しかし、マニュアルを読み込んでいたので、問題のない対応ができる。しっかりと権威があるように対応される。大事にされるし、注目される。人としての評価が高いと言うのは、こういったことだと改めて感動する。なんて気分がいいんだろう!
 ナイスマンが注目を集めるのを良しとしない議員も多くいた。彼らは批判して自分の評価が逃げることは目に見えているので差し障りのない対応をしていたが、同じ穴のムジナ、評価されたい人たちの集まりなので、憎悪とか嫉妬がジメッとした雰囲気が何気に出来上がる。それを理解して政治記者たちは議員たちにナイスマンを引き合いに出すインタビューをする。
「俺より目立ちやがって!俺の方があいつより、偉いんだ!」と心の中で思う議員がほとんどだが、絶対に口に出さない。だが、政治記者は虫のようにへばり付いて、その本音を聞き出そうと躍起だ。まるで、排泄物に蝿がたかるような感じで。
 「柄澤くん、人気者だな。だが、気をつけろよ。議員ってのは、みんな同じだ。人よりよく思われたい一心で議員になっているんだ。君と同じだ。評価が欲しくて欲しくてたまらないのと、選挙の気持ち良さに取り憑かれた連中だ。私も含めてね。だから、少しでも自分より人気がある議員に対するジェラシーが酷いんだよ。」
 エイプマンが国会議事堂に入る際にそっと近づきナイスマンに助言した。足元を救われないように気をつけよう。
 「柄澤さん、おめでとう。今日は新人議員を交えての初会議だから、その後の打ち上げが楽しみだね。」
 藤江議員が近づいて微笑み交えて話しかける
 「藤江先生、ありがとうございます。頑張ります。ところで、議会の後に、打ち上げなんてあるんですか?」
 「えっ、知らないの!へー、地下階先生、そういった大事な説明をしないんだ。そうか、聞かされてないのか、ふーん。」
 人を試すような半笑いの嫌な言い方だった。藤江議員が明らかにナイスマンに対してマウントを取ってきた。イラッとしたが、こういった人物には素直に従っておかないと、あとで難癖つけて集団で排除にかかることは目に見えていたので、ぐっと我慢する。
 「いや、私なんて藤江先生なんかと違って、下っ端なんで、何も知らされてないんでしょうね。情報ありがとうございます。」
 話題の人に持ち上げられると藤江議員もいい気分。満面の笑みで先輩風を吹かす。
 「柄澤先生、大丈夫。私がうまいことやっておくから。」
 藤江議員は、おそらく何もしないだろうが、ここで恩着せがましく、なにやら調整役を買って出た。ナイスマンからの「おかげさまで」という評価を得に来たのだ。ナイスマンはそれを理解した上で藤江議員に礼を言う。仲間意識ではなく、同じ職場の人としての振る舞い。マネーマンだった頃には、職場の評価なんて気にもしなかったが、ナイスマンとなってしまったからには、いつ何時だって評価が大事になってくる。評価を持つと言うことは、快楽なのだが、それを維持していくのは相当なストレスである。とはいえ、評価の気持ち良さを知ってしまったら、そんなストレスは意識下に閉じ込めておくことができるし、そういった人間でないと、評価維持のストレスに潰されてしまう。
 参議院本会議場に入る。まるで劇場のような凝った作り。歴史を感じさせ、権威を感じさせる。ナイスマンは与えられた舞台だと小躍りしたい心境だったが、半円状に並ぶ席に着くと天井の高さには感激したが、席の狭せに、肩が触れ合う窮屈さに、商品として箱に閉じ込められるような嫌な感じがした。
 カメラの視線を感じる。国会中継だろう。流石総理の演説が始まる。この中で一番目立つポジションだ。ナイスマンは内容は聞き流していたが、じっと見ていた。自分だったらどういった演説をするだろうかと考えていた。下を見て台本を読むのは格好悪い。もし自分があの場所にいたならば、完全にセリフを覚えて、抑揚のある身振りをし、見事にその役を演じきる自信がる。ここまで来たのだから、どうせなら、一番になろう。ナイスマンは目標をもった。日本一の評価持ちになる。その次は、世界一を目指そう。そのためには宣伝活動をする必要がある。遊説だって大事だ。それに役が欲しい。大臣経験という権威がいる。するべきことがどんどん見えてくると、ナイスマンは何から手をつけるかを戦略を練る。
 すべては自分のためだ!
 多い評価とは、力だ。力があれば支配ができる。支配したものが、権威となり、宝となり、大衆の善意によって勝手に大事に磨かれる。罪の意識なく、身軽に、世界を支配することができるんだ!それは、自分の価値を高める一番の方法だ!それは選ばれた人しかなれない。そうだ、王様になるんだ!
 夢見るナイスマンは、素直に世界支配を思い描いた。評価があれば、なんでも出来る。だから評価を得るためなら、なんだってする。
 「おい、柄澤くん、会議は済んだぞ。今からみんなで宴会だ。ボデーチェックを受けて地下に集合。遅れるなよ。自国党だけじゃなくて、他の党もみんな来るんだ。」
 エイプマンから声をかけられて、藤江議員について地下の会議室のドアを開ける。生暖かい空気と笑い声が漏れる。そこには議員が詰まるぐらい揃っており、テーブルにはご馳走が並び、酒を片手にすでに宴会が始まっていた。バンケットレディーが裸になって、至る所で奉仕しており、まさしく酒池肉林、ナイスマンは目を輝かす。浮足立ったナイスマンは大勢の評価乞食の宴会に喜んで飛び込んでいった。了
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