2-28 マネーマン8

文字数 1,170文字

マネーマン8

 「おい、旭川を呼べ!ドロー嬢がまた、アニメアップしているじゃないか!こんなの契約違反だ!損害賠償の手続きを取る。いや、その前に対策しなきゃ、あれ、なんか登録者減ってるじゃないか!どうなってんだ!」
 オフィスにはクリスマスのインテリア商品が並んでいた。窓から部屋を覗くサンタの笑顔が印象的な包装紙のサンプル、リースの絵が入った皿、小さなツリー、ラッピングされた気持ちのこもったように見えるプレゼントの見本。そのささやかな幸せの様子と真逆なマネーマンの怒声。
 「おいおい、そんな声を上げるなよ柄澤。」
 オフィスは静まり返った。大きな体で、高価な身なりだが、だらけた体でそう見せない男がのっしのっしとマネーマンにまっすぐ向かって歩いていく。dadaの社員たちはモーゼの十戒のように道を開ける。
 「・・なんの、用ですか?畑中さん。」
 「なんのようですか?じゃないだろ、俺は今日からここの社長ってことになったんだから。お前に続く第二位の大株主の俺に、社長に振り回され嘆く社員が、株を譲渡してくれたんだ。何のためか?お前を追い出すために。理解しろ、俺は白馬の王子様ってことだ。」
 マネーマンは目を見開いた。その後、田代を目で追った。田代は視線に気がつくと、視線を外にずらした。マネーマンは会社で初めて無視された。自分が作った会社で、いないものと扱われた。その事実は、足元が抜け落ちるほどの虚脱感があり、自分の体がどんどん小さくなる恐怖感もあった。振り絞った最後の力で、どうしようもない怒りが沸き起こるが、何をされたか理解していて、この場ではどうすることも出来ないことを理解していた。認めたくはないが、自分はよくわからないものに負けたのだ。
 「おっ、さすがだな。帰り支度を始めたか。まあ、すぐ這い上がってこいよ。反省したら戻れるかもしれないからな。金はまだあるんだろう?しかしな、理解しといたほうがいいぞ。お前のやったことは、ここのみんなから聞いた。柄澤、お前は、金を持っているが、評価がなかったんだ。しかも、評価を金で買えると思った時点で、負けだったんだ。それなのに、評価の塊みたいな奴に挑んだのが間違いだったんだ。そのぐらい理解していたかと思っていたんだが、成金は勘違いする、絶対に勘違いする。金で何とかなるって思うんだ。俺みたいな本当の金持ちは、身近な評価を大事にする。人を大事にする。じゃないと、信用が生まれないからな。不思議なもんで、ルールがないところは世の中、信用で成り立っている。その信用を大事にしないと、とんでもない目に合うんだ。おい、話はおわってないぞ!」
 マネーマンは畑中が話す言葉を聞きもせず、身支度を済ませ、足早に出て行く。見送るdadaの社員たちは、どう見ていいかわからないので、とりあえず気の毒そうな顔を並べた。
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