2-8 マネーマン2

文字数 1,280文字

 マネーマンは早速ユーチューブチャンネルを開設する。撮影、音声、編集の人間を広報から回し、第一回をアップする。内容は今更の自己紹介と事業紹介、新製品の案内。娯楽性は乏しく、面白おかしい動画ではなかったが、チャンネル登録者は、柄澤信者が応援のため登録し、三十万人にすぐ届いた。メディアはすぐさまニュースにし、チャンネル登録がいきなり三十万人あったことを騒いだが、動画の内容には一切触れなかった。コメントには「これからどんな動画をするのか楽しみです!」などと好意的なものも多かったが「おい、恋人死んだのに動画か?いい気なもんだな。」「金持ちの自慢動画になるんだろうな、クソ」「消えてなくなれ」などと批判じみたものが一気に増えた。はーちゃんの自殺から二週間も経ってないのにユーチューブチャンネル開設は注目を集めるタイミングではあったが、同時に悪い印象を与えるタイミングでもあった。
 「なんでさ、チャンネル登録が1日で三十万あったのに、一週間経って三十万のままなんだよ?それにいいね!も視聴回数も全然伸びてない。こんなんじゃ、俺をディスったドロー嬢に勝てない。あんな悪趣味なアニメが一億回超えて、俺登場の動画はたったの三十五万回。何か原因があるんじゃないのか?見栄えが悪いとか、編集が下手だとか、あと、面白くないとか。この俺が出るのに、つまんない動画じゃ、俺の評価が下がるんだよ。なあ、田代さん、言ったよなあ、悪い評価消すためには、ドロー嬢に勝てばいいって。プロジェクト立ち上げたんだから、これには経費がかかってんだから、結果出さないと!」
 ヒステリックなマネーマンに秘書はムカついたし、カメラマンと編集も呼び出され、マネーマンに散々罵倒され、周りのみんなはウンザリした。1ミリもいいね!という気分じゃないのに、いいね!を必死に追いかけろと言われる。
 「みんな集めて企画を考えよう。これはdadaパレスにとっても重要案件だ。代表の俺がこの会社みたいなものだ。その代表が漫画描き程度にナメられたら、会社そのものがナメられたことになる。思い知らせてやるんだ。相手は一人だ。俺たちはチームじゃないか!色々な困難に立ち向かってきた仲間じゃないか!今こそ力を合わせるんだ。一人じゃ無理なことも、チームになれば達成できる!」
 社長のプレゼンテーションはいつも同じパターンだが、商品を売り込むのと悪評を振り払うのでは内容が違う。と秘書は思ったが、もしかして、社長にとっては、自分の思いつきを、自分の意思を多くの人を巻き込んでするのは、全て一緒ということなのかもしれない。ビジネスも、殺人も、善行も、悪行も、全て目標に変え、周りを巻き込み、諦めずに成功に導こうとする。そういった意味ではストイックなのだ。ここから先は数値化と予測を連呼する。改善を繰り返し、誰が考えたって成功するってところまで持っていく。ただ、そこには善はない。あるのは本人の強い思いだけだ。成功を収める人間は大変わがままであることを秘書はこの時、改めて理解した。実業家に正義なんてない。あるのは強い意思と意地だけだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み