2-11 マネーマン3

文字数 1,342文字

マネーマン3

 「俺は二週間で億単位をつぎ込んだ。だから二十万人登録者が増えた。それはいい。もう少し増えてもいいぐらいだけど、結果が出ている。が、問題は、ドロー嬢の登録者も二十万人増えた。これは結果、俺が宣伝したやったことになるんじゃないのか?あいつは俺に対する誹謗中傷で落書きを金に変えているような最低な女だ。なんでこうなる?」
 不満げな顔で社長室のソファに踏ん反り返るマネーマンに秘書は唾を吐きかけたかったが、社会人として我慢して、しかし、人間として知恵を使う。
 「一人で盛り上がっても、相乗効果は生まれません。ライバルがいるからこそ、注目が集まるのです。また、一度盛り上がってしまうと、期待を背負うことになります。それは社長ほどの人からすれば、よいプレッシャーになりますが、一般の、絵を描いているようなおとなしい人からすれば、ストレスになります。苦しんでいるに違いありません。それに、負けた時の被害は、周囲の期待が大きいほど、立ち上がれなくなるほど、大きくなります。完全に潰すことができます。」
 秘書の思いつきの発言を聞き、マネーマンが一旦考えて、それからゆっくりと、にったりといやらしく笑う。秘書はとって付けた言い訳がバレたのかと嫌な予感がしたが、表情は変えず当然のように振る舞う。
 「なるほどね、結果、二度と立ち上がれないようにするわけか。お絵かき風情が、一流実業家の俺に逆らおうってのが、間違いなんだよ。じゃあ、とりあえず放っておこうか。いや、調べよう。このドロー嬢ってのが何者なのか。」
 「調べてますよ。旭川マナ、神奈川県の女子高生です。お父さんは、外資系に勤めていましたが、今は事業を始めるため準備中のようです。娘の収入に当て込んで何か始めるつもりのようですね。母親は専業主婦。」
 「なるほど、女子高生か。はーちゃんのファンだったってことか。何も知らんから歯向かってきたんだろうけど、絵が描けるだけで思い上がってきたんだろうけど、思い知らせてやるか。金はあるし、俺もいる。負けないだろう。」
 マネーマンは攻撃に出る。まず、ユーチューブではーちゃんが自殺したことに対して、泣きながら思いを語る。これは注目を集めたが、「ふざけんな!お前が殺したも同然じゃないか!」とアンチを増やしただけだった。しかし、その情報はマネーマンには入らない。秘書をリーダーとするチームがマネーマンが機嫌を損ねることは耳に入らないように情報統制を行う。マスコミに金を配り、ネットでは削除依頼のサクセション。広告費を超える情報統制費用。秘書は独裁国家の番頭になったように、独裁者の不正隠し、歴史の改ざんを日常とするうちに、日に日に精神を病んでいった。一方でマネーマンはそうとも知らず、今度は動画で金持ち自慢を始めた。数千万円のスーパーカーをおもちゃを買うように手に入れる様子をユーチューブにアップして、自動車自慢を行ったり、海外のリゾート地に赴き、贅沢を見せ付けたりと、一般人の批判を買うようなことを繰り返した。だが、不評は消され、バイトが「いいね!」を繰り返す。「柄澤様が気持ちよくお金を使って、経済を回してくれている!ありがとう!」などと戯言が従業員によって書き込まれ、バイトによって拡散される。
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