3-6政治家の心得

文字数 1,375文字

 その5・してはならない心得を決して口に出してはならない
 政治家として一番重要視しないといけないのは、支持、人気だ。我々政治家は、何も決めない、何も約束しない、何も作らない、何もしてなはならない。なにもせず、それでいて、人気者でなくてはならない。決して嫌われてはダメなのだよ。我々ほど真実を語ることができない職種はないだろう。もし、本当のことを言えば、誰も支持しようとしなくなる。政治家は国民の宝でなくてはならない。宝は、存在するだけで、磨いてもらい、輝くことができるんだよ。
 誇らしげに言うエイプマンに対して、マネーマンでさえ、嫌悪感、クソを見るような気分になり、ツバ吐いて帰ろうかと一瞬考えたが、しかし、よくよく考えてみれば、存在こそが、人気者であれば、それで全てが揃うとなれば、魅力的ではある。芸がないタレントであり、権威がある。自分ほどの立派な大物であれば、まさしく政治家でトップを取れるのではないかと思うことができた。高貴な存在が仕事。何も考えず、人気だけあればいい。冷静に分析すると、今までの自分は製品やアイデアがないと、出世出来なかったわけだ。彼ら政治家は、何もないのに、出世して、世間から特別に扱われることができる。自分という存在を世間に売り込み、承認されることによってのみ、政治家として存在することができる。これは個人的な生存に対する能力を持ってないと出来ないことだ。何もしてないのに、ちゃっかり支配側に回る。これは製品やアイデアではない。人間として力の成せるものだろう。役に立たないが、大事な人として、支配者として振る舞える。これは難しい課題だ。これが出来る人間はユーチューバーか政治家ぐらいしかいない。ユーチューブは負けたからもういい。そうなると、自分ののし上がる方法は、政治家しかないと覚悟して、マネーマンはすぐに自己暗示をかけた。政治家になるしかない。政治家になるしかないと何度も自分の中で繰り返し、政治家として成功した姿を、人から望まれ、喝采を受け、大事にされることを思い描いた。
 「柄澤くん、心得は理解できたかね?」
 「はい、理解できました。」
 「よろしい。この心得を聞いて、実業家は政治家への道を閉ざす事が多い。実にもったいない話だ。成功した実業家というのは、何でも売ってきたわけだから、自分を価値があるように売り込む事も、その仕組みを考えるのも上手いもんだと思うんだが、そうではないらしい。この心得を聞いて喜ぶのは世襲議員だ。彼らは何もせずに、人気を得ることに抵抗が全くない。何しろ、何もせずに育ってきたから、それが当然で、人からチヤホヤされるのが当たり前だと思っている。本当に政治家向きなのだが、実業家のような戦略がないから、組織が作れない。派閥もお下がりばかりで、大きな派閥組織の作り方が下手だ。誰もがやってもらうのが当然で来ているから、何もできないんだ。何もできないのと、何もしないのでは、意味が全く違う。あなたは、何もしないの意味を心得を聞いていく中で理解したようだから、政策には何も触れず、政局に注視したら、中堅リーダーぐらいには成れると思う。柄澤くん、我々は君を評価している。それに政治家に向いていると思う。これは私の直感だからね。謙虚な振る舞いができたら申し分ないと思っていたが、それは出来ている。」
 
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