2-3 ドロー嬢1/マネーマン1

文字数 1,286文字

 これまでウチには金はあったけど、周りの評価はなかった。だから、窮地に落ち込んでも、誰も助けてくれない。ドロー嬢は今更、家族で地域活動に参加しても無駄だと理解していたし、そんな近所の評価なんて腹の足しにもならないことは理解していた。今、旭川家で頼れるのは、ユーチューブのドロー嬢の評価しかないのである。評価があるから、お金が入り、生活ができている。正直、家族からの卒業がしたいが、なんとか自立した生活まで面倒を見るべきだろう。それは優しさからではなく、落ちるに落ちると、邪魔になるからだ。「無能な人間は切り捨てるべきだが、切れない場合は邪魔にならない程度で生かす。」これは旭川が娘に教えたことの一つである。教育は案外、自分の身を助けることになる。 
 ドロー嬢は単純に自分のアニメを描きたいだけなのだが、今は、お金に変える評価を得る手段を考えるべきだと思っていた。イルカが水中からジャンプするところを書いているが、水中では視点の動きに水の抵抗を出して、まどろこしくイルカの姿を追うことにし、水面に出た途端、視点が自由に早く動くように描くように決めた。自分は今、家族という水の中にいるのだ。水からでれば、抵抗なく思うように動けるに違いない。
  
  マネーマン1
 
 柄澤友蔵は年商七百億円のインテリアショッピングサイトの代表者である。まだ四十代半ばで巨万の富を得た。彼のビジネスは柄澤が大学生の時にアパートの布のカーテンがカビてしまい、捨てるか、洗うか悩んだ際に、紙で作ったら面白いのではと考え、ペーパーカーテンを作ってくれるところを探したところから始まった。紙で作れば安く済む、カーテンは部屋の雰囲気をガラリと変えるのに有効で、柄澤は色々なカーテン柄を考えて、ネットで販売を始めた。世は新世紀となっていたが、大学生は就職氷河期で将来に期待ができない中、自分で考えて商売する面白さを若いときに知ることができた。最初の二、三年はあまり売れなかったが、ネットが出始めで、ショッピングサイトなどに参加して認知を広め、テレビに取り上げられた。これがきっかけでペーパーカーテン「dadaカーテン」が流行する。サークル活動の延長のような販売が、株式会社に変わっていく。日に日に成長する様は柄澤自身が世の中に認められているようで、自分の存在が大きくなるような興奮を覚えた。彼はその時点からお金には興味がなくなっていた。自分の影響力が大きくなるのが嬉しくて仕方がなかった。紙のカーテンに止まらず、いろいろな新しいインテリア製品を発売した。ショップモールは大きくなり「dadaルーム」と部屋になり、そのうち「dadaパレス」と宮殿にまで大きくなった。年商は倍々ゲームで大きくなり、そのうち乗数で成長し始める。持ち株は価値を雪だるま式に成長させ、彼に金の感覚を麻痺させた。お金はあって当然となり、大勢の人が彼に傅いてきた。お金には引力がある。お金目当てで女が寄ってきて、選びたい放題。自分が知らないお金の使い道を親切な大勢が教えてくれる。自分がお金を使うと、みんなが喜ぶ。大量に使えば、お祭り騒ぎ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み