2-29 ドロー嬢9

文字数 1,088文字

ドロー嬢9

 ドロー嬢のチャンネル視聴者数は九十八万を超えていた。ここ一週間で加速度的に増えている。今回アップした動画「驚くべき旅」が牽引しているのだが、理由は出来もさることながら、通常のドロー嬢の動画には音がない。白黒音無がスタイルだったのだが、今回は音付きバージョンがあちこちで公開されていた。火付け役は池上とダイスだった。池上がダイスに依頼して、ドロー嬢公式として音付きバージョンを製作し、ダイスのチャンネルで流したのだ。ドロー嬢公認ということで、ドロー嬢ファンが見に来たし、ダイスのファンがドロー嬢の動画に関心を持った。池上はダイス以外にも依頼した。池上のクライアントである高齢ロッカーたちは、ベテラン揃いなので高品質なオリジナルの音楽を提供する。これがきっかけに再注目される還暦ロッカーたちが増えた。評価が評価を呼び、評価の輪を作り、それが大きくなる。コラボレーションは質が高いもの同士だと上質になる。視聴回数はそれぞれで伸びた。
 「おい、元気か?もうすぐ勝ち決定だな。ところで、スターアイランドの還暦ロッカーたちが集まってクリスマス会するんだ。彼らの世代はクリスマスに大きな関心があるようで、チキンの手配が大変なんだが、来ないか?なんか、みんな、ドロー嬢に会いたいんだって。俺もワールド郎を連れて行くんだ。今回のことで思い切り儲かったんだよ。みんなからクリスマスプレゼント貰えるかもよ。会場貸し切って、バンドが一曲ずつ演奏するんだ。」
 池上が電話してきた。クリスマスといえば、明後日だ。ドロー嬢は困惑したが、曲付きの動画を見て、興味を持っていたので参加したかった。一方の池上はちょうど百万人に達する頃だろうからライブ配信したら注目されるだろうと踏んでいた。池上は学術として「評価」というものを研究し始めていた。評価があるもの同士を集めたら評価がどのように増えるかが知りたかった。
 「うん、わかった。行くけど、お父さん、お母さんを連れてってもいい?」
 「親孝行か、旭川さん、ダイスと仲直りするチャンスだな。いいよ。主賓の希望は通って当然だ。」
 昨日の晩遅く、旭川が泥酔して帰ってきて「おい、どうすりゃいいんだ!」って妻、慶子に泣きついていた。マネーマンが突然飛んだことによって、身の置き場が微妙になったようだ。もううんざりだった。しかし、家族である。最後にいい思い出を作ろう。もう少しで卒業できる。大人になるまでは時間が成長を区切ることになっている。その時間がもうすぐ終わる。今すぐ飛び出すことも可能ではあるが、それでは父と母の立場がなくなる。それだけは大事にしよう。
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