2-6 ドロー嬢2

文字数 1,359文字

 「柄澤社長はたくさん納税しているので日本に貢献している。」
 「たくさん贅沢してください。おかげで経済が回りますから。」
 「柄澤社長の金を狙うはーちゃん、いい加減にしろ、結婚無理だから。」
 と柄澤社長参礼が多く、金でものを言わす醜悪な部分を、すべて、はーちゃんに被せているものが多かった。そうなったら、はーちゃんが一人悪者になる。はーちゃんは繊細な人で、それは声の仕事にもよく出ていた。世間の悪意に攻められたら、耐えられるはずがない。
 「・・・柄澤、許さんからな!」
 ドロー嬢は阿修羅坂はるか自殺のニュースを見ながら呟いた。だが、自分が何かを呟いたところで、金持悪党を懲らしめることはできそうにない。だからこそ、自分ができることをする。アニメーションだ。はーちゃんがお菓子のコマーシャルフィルムで、ダンスを披露したことがあった。かなり複雑な動きの創作ダンスで、話題になった。
 ドロー嬢は絵の中ではーちゃんを踊らせる。二週寝ずに書き続けた。絵の中のはーちゃんは肩をゆっくりと抜くように揺らしながら、八方向にステップを踏みながら円を描くように回る。それを視点を上から螺旋のように下げながらゆっくりとズームしていく。足がアップになる。ステップを忙しなく踏む。いつの間にか絡まる紙のカーテン。動きが封じ込められ、身悶えするはーちゃん。紙のカーテンにはいつの間にか紙幣の柄が入っている。はーちゃんは、お金に締め付けられている。紙幣模様の紙のカーテンが首にかかり、はーちゃんが苦しそうな顔をする。壱万円により首元が閉まる。はーちゃんは最後にあがき、力尽きて絶命する。
 2分ちょっとの動画だが、強烈なイメージを残す。踊る女が、厄介なものに絡まれ、自由を奪われ、哀れに死んでいく。日本人の視聴者のほとんどが、はーちゃんの事だと気がついたが、海外からの視聴者は現代アート、自由を奪われる象徴として、このアニメーションを鑑賞した。三日足らずで視聴回数が億を超えた。この柄澤に対する風刺、当てつけに対してメディアは始めdadaパレスに気を使い黙り込んでいたが、さすがに全世界で話題になってきているのに放っておくことができなくなった。
 視聴回数が伸びる様を見て、全身全霊を込めて描き尽くしたドロー嬢は表面上は、仇を討ったかのように落ち着いてはいたが、何か、酷くもどかしく感じられ、イライラしていた。こんなことをしても、はーちゃんは生きかるわけではない。しかし、はーちゃんが辿った人生は不幸なものであり、誰かにそれを感じて欲しいし、原因となった柄澤が酷い目にあってほしいと願っていた。
 「マナちゃん、すごいじゃない!これだけ視聴回数が行ったら、お父さんのお金も、問題ないでしょ?もう、引き落としておいたからね。」
 まだお金は入ってきてないが、旭川は娘の活躍に焦りを感じ、元手さえあればなんとかなると、二千万ほどドロー嬢の口座から現金を引き出していた。娘から金を奪う、手を汚す嫌な思いを妻に押し付けて、自分はさっさと仕事場を借りて移っていった。置き土産はドロー嬢の母の頬に残る青あざだけだった。無理に明るく振舞おうとする母親を見て、ドロー嬢は世界に対して絶望した。 「許さんからな!全員許さんからな!」ドロー嬢も紙幣のカーテンに絡まってしまった。
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