第25話 お菓子作り

文字数 1,176文字

 その後も何だかんだ、ハチャメチャな、全然中身のない、とりとめの無さにもほどがある…、ってなやり取りが続いた。
 1足す1は憲斗クン、みたいな…
 ああ、僕はこのお母さんの子どもなんだなあってつくづく思う。

 それでも、たまにまともな話をする。


「ところで、ユウキ、まだお菓子作りやってるの?」

「うん…、変かな?」

「ぜんぜん!偉いわ、ユウキ、これからもちゃんと続けなよ。」

「うん。でも、急に何で?」

「あのね、お母さん思うんだけど、お菓子作りみたいなことこそ、男の人がやることに意味があると思うんだ。」

「ううん…、でも、キモい、とか思われないかな…」

「無い、無い、無い!そんなこと思うヤツ、クソだよ!」

 クソときた…

「だって、作ったお菓子あげて、嫌がる子いた?」

「うーん…、いないなあ。みんなすごい喜んでくれたね。」

「ほら!」

「先輩たちも、美優も…」

「憲斗クンは?」

 やっぱり…

「バレンタインデーの日にね、みんなに作ったんだ。憲斗はいつもお世話になってるから、ちょっと特別なやつ作って渡した。」

「うん、うん、そしたら?」

「渡した時は特別なリアクションなかったんだ。ああ、ありがとう、お前がくれるの?くらいの…」

「なによ!」

「だけど、後からわざわざ電話かけてきてくれてね、これ、お前が作ったの?ってビックリしてた。ちゃんと包装して渡したから、買ってきたのかと思ったみたい。すごい謝られて、めっちゃ感謝された。」

「でしょ!でしょ!でしょ!さっすが憲斗クン、ユウキ、オトコ見る目ある!」

「待ってよ…」

 なんか、メッチャ嬉しそうなんだけど…

「あのね、ちゃんと心込めて作ったものを渡した時のリアクションで、その人って、すんごいよく分かるの。」

「ううん…、でも、そうかもね…」

 美優もめっちゃ喜んでくれたな…。それでホワイトデーもお互いに返しっこしたんだ。
 兵藤先輩なんて、校長先生から表彰されるみたいにして受け取ってくれたもんな…
 シオン先輩は受け取った箱を小脇に抱えてスキップしてたし…

「役割分担とかって話じゃないの。自分のために作ってくれた人に感謝して、自分ができるときはその人のために“作る”の。“作る”ってのは形のある物とは限らないわ。お互い、作って作ってもらって…それの繰り返し。結局、人間関係って、それがあって初めて成り立つの。無くなると終わる。ただそれだけ…
 憲斗クンにもちゃんと伝えといて。お互いに大切なことだから。」

「あのさ…」

 でも…、そうかもしれない。
 僕も、やってもらって当たり前、みたいな…

 ちょっと美優の顔が浮かんだ。
 憲斗の顔も…

 美優に今度、お菓子作ったげよ
 もちろん憲斗にも
 あの二人、メッチャさり気なく僕のサポートしてくれるもんな…

 でも、お母さんは誰をイメージしてこんなこと言ってるんだろ。
 きっと、お母さんにもいろいろあったんだね…
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