第19話 ラスボス役

文字数 909文字

 今日の部活は、秋の映画祭に向けてのスタッフの打ち合わせだった。

 今日初めて知った。映画って、SF映画なんだってことを。背景や映像は、理系の先輩たちがCGで作るらしい。理系の先輩たちはみんな優秀で、凝り性の人が多いから、リアルな映像ができそうで楽しみ。

 ところで今回僕は、先輩たちを差し置いて主役をやらせてもらうことになった。しかも素敵な女性の先輩方がたくさんいる中で、よりによってこの僕がプリンセス役を授かった。このプレッシャーはかなりのものです。
 ありがたく引き受けさせてもらったものの、先輩たちに申し訳ないって気持ちと、反感や妬みを買わなきゃいいけど…っていう複雑な思いでちょっとビクビクしていた。
 でも、その心配は取り越し苦労だった。それどころか、僕は先輩たちの人間力を完全に見くびっていたんだ。

 みんな驚くほど積極的に歓迎してくれた。特に脇役の先輩たちが熱烈に支持してくれたのはある意味ショックだった。僕の従順な"召使役"だったり、僕のために命を差し出す忠実な"家臣"役を演ずる女性の先輩たちまで、口を揃えて、「ユウキ姫となら楽しくやれる」って喜んでくれた。

 男の先輩の中にも大喜びしてくれた人がいた。3年生の兵藤先輩とか…
 兵藤先輩は、今回の映画では敵の "ラスボス" 役。強面(こわもて)で口数少ないので近寄りがたいイメージだけど、とても親切で優しい先輩だ。
 聞くところによると熱烈な僕のファンで、僕をアイドルのように崇拝してくれているらしい。
 でもそれ、めっちゃ感じる…。普段冷静で怖そうなのに、僕と話すとき、すごいアタフタして話すんだ。
 僕もそれが楽しくて、わざとジッと見つめて話を聞いたりする。睨んだりはしないよ。軽く微笑んで。それも、ちょっと上目遣いにね。そしたら余計に照れまくって言うことが支離滅裂になるから面白い。アーとか、ウーとか、エーってセリフが妙に増える。目なんか泳いじゃってるし。
 しかもなぜか僕にだけ、ユウキさん、ってさん付けする。
 この先輩、とっても好きです。

 なんでも、敵のラスボスとして、ヒロインの僕を苦しめることを本気で申し訳なく思ってるらしい…ってのも笑えるし、ますます好感持てます。
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