第17話 とりとめの無い

文字数 1,041文字

 新学期が始まった。
 次の授業が休講になったので、カフェで時間を潰すことにした。

 入ってきたばかりの新入生たちでカフェは混み合っていた。大学生としての新しい生活にようやく馴染んできて、徐々に友だちも増え初めた…、そんな雰囲気の新入生たちで。
 初々しいな…

 そんなホッコリとした思いに耽っていた時、なんとなく誰かが僕を見つめているような気がした。それで、思わずその視線を感じる方に目をやると、一人の新入生男子が隣の子にそっと耳打ちしているのが目に入った。すると…、今度はその耳打ちされた子が、驚いたような顔で僕を見つめ、

「えっ、あの人?マジで?メッチャ可愛いじゃん!」

って言うのが聞こえた。

 これは新学期に入ってから毎日のように “あるある” の風景。たいていヒソヒソ話が耳に伝わってくる程度なんだけど…。
 もちろん “可愛い” なんて言われて悪い気はしないよ。でも、少し居心地悪くなる。
 僕はもう、一年生の間ではちょっとした有名人みたい。わりと露骨な視線に晒される。残念ながらこれは…

 気のせいじゃない

 その時、「ユウキ!」って呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、美優が笑って手招きしていた。

 あっ、美優じゃん!
 良かった…
 やっぱ、この笑顔…、大好き

「一緒に座っていい?」

って聞く前に、美優はもう向かいの椅子の荷物をのけてくれていた。

「ユウキ、その上着、春っぽくて良いね。可愛い!」

「ありがとう。こういう色、あんまり着ることなかったんだけど、けっこう気に入ってるんだ。」

「ユウキ、そういう明るい色、よく似合うね。良いなぁ…。ユウキのホンワカした雰囲気にすごい合ってる…」

「ホント?美優に言われると嬉しいな…」

 美優にそう言ってもらえるととっても嬉しい。

 この後もとりとめの無い話が際限なく続いた。洋服やファッションのこと、身の回りのどうでもいいあれやこれやについて。

 美優はじめ、いろんな女の子たちの会話に入れてもらって知ったことがある。それは、"とりとめの無い" どうでもいい話を心置きなくできるって、この上もなく幸せだってこと。最高に有意義で楽しい会話って、今目の前にいる人と話してる、それ自体が楽しいってこと。
 中身なんてどうだっていい。"無" でいいの。昨日目の前に立ってたオジサンのハゲ頭の話でいいの。
 結論もオチも要らない。話をまとめるなんて大きなお世話…です。

 それはともかく…、美優にもあの話を聞きたかった。例の映画祭のコンセプトが、“子どもに見せたい映画“だってこと。





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