第4話 妹役

文字数 1,094文字

 僕も美優も、大学では同じ映画…というより映画にとらわれない映像や作品をつくるサークルに属している。
 僕のこのサークルでの立場は、目下のところ、"女優"。一応これでも看板女優の一人に名を連ねているんだ。

 映像サークル “STINGS” はまだできて新しいけれど、レベルは高いことで知られている。デジタルはもちろん、新しいものを積極的に取り入れ、新旧いろんなものをコラボさせたりと、偏見無く面白いと思ったものを何でも創っている。だから創作意欲の高い人や、新しもの好きがたくさん集まっている。
 ここのところ、意欲的な取り組みが評価され、映画祭でも賞を取り続けている。その上、最近テレビドラマで人気俳優になった先輩まで現れたので、華やかな雰囲気が一層増したようだ。人間関係や上下関係もとてもソフトなので居心地いい。

 実は僕も高校の時から映画を創っていた。
 ただ、高校の時は主に制作の側でやっていた。あまり人前で演ずるのは得意じゃなかったってこともあるけれど、どうやら僕のどっちつかずのルックスは、俳優としては使いにくかったらしいんだ。

 STINGSでも制作中心にやるつもりで入部した。でも、去年1年生の時に、シオン先輩という、専ら制作をやっている素敵な先輩から、主人公のモテ男君の〝妹〟役をやってほしいって強烈にプッシュされた。

 えっ、妹?

って躊躇したけれど、思い切って出させてもらった。それが思いのほか評判で、僕の存在が学校の内外で知られるきっかけになった。

 僕が男だってことは、上映会の前からとうに知れ渡っていたようだ。
 僕の演技力なんてたかがしれている。だから僕への評価やコメントも、大半が、

 超絶可愛い…とか
 女の子より女の子…とか
 まさに神…とか

まあ要するに、ルックスに関するものがほとんどだった。

 でも、それはそれで良いと素直に思える。なぜなら僕は、妹役を心から楽しんでやれたから。自分でも驚くくらい。

 ほんとに楽しかった…

 実際妹役をやってみるとね、想像以上にいろんな思いや知らない世界が見えてくる。僕は女みたいって言われ続けてきたけれど、今まで女の子の内側の世界なんて、あまり真剣に考えたことが無かった。むしろ男に見られたくて、そんなことはできるだけ考えないようにしていた。

 大半の部分は重なり合うんだ。
 でもね、微妙に、ほんのちょっとだけ食い違う部分がある。
 そして、そのほんのちょっとが意外と大きな差で、しかもとっても魅力的な世界なんだ。

 この容姿に生まれて良かったって、心底思えた不思議な経験だった。こんな姿じゃなかったら、〝妹〟役なんかに選んでもらえなかっただろうから。
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