第2話 ぬくもり

文字数 1,008文字

 ふっと…
 ほんとに "ふっ" て感じで、美優が僕の手を握ってきた。
 彼女の仕草はいつも自然だ。
 きっと深い意味は無い。
 女の子が女の子の手をつなぐ…
 女の子どうしなら、ごく普通に交わされるコミュニケーションの姿だ。
 深い意味は無い…

 でも、僕はドキッとする。
 ちょっと緊張するけれど、美優の手を握り返す。
 その手は少し冷たかった。
 でも歩いているうちに段々温かさが伝わってくる。
 やっぱり美優の手はとても温かい。
 細くてスベスベの手だ。
 幸せな気分だった。

「ユウキの手、最初冷たいなって思ったけどさ…、握ってたら段々あったかくなってきた。細くてスベスベの手だね。」

 えっ、びっくりだ。

「僕、今、同じこと考えてたよ。」

 今度は自分の指を彼女の指と指の間に、多少強引に挟みこみ、今よりも強く握りしめた。美優もそれに応えて強く握り返してくれた。その仕草は、僕よりも遥かに自然な女の子の反応だった。
 やはり、深い意味は無い…

 美優は、最近ちょいちょいお誘いを受けるという男の話をした。同じ大学の1年上の先輩だ。その人と面識は無いけれど見たことはある。サッカー同好会のスポーツマンで、ガッシリとした体格の、いかにも男らしい感じだった。僕とは真逆のタイプだ。
 彼女はずっと彼のことを話した。時に面白おかしくけなしたり、クソ、なんて言葉を使いながらも、なんだかとても楽しそうに。

 僕も彼女に合わせて楽しそうに相槌を打つ。平静を装って大袈裟に反応したりしながら…。それが却って切ない気分にさせる。

 家に近づいてきた。僕は思い切って美優にこう切り出したんだ。

「良かったら、僕んち、ちょっとだけ寄ってかない?」

 ひょっとして声が震えていたかもしれない。僕なりに精一杯の誘いだったから。

 うーん、と、美優は少し間を置くと、

「ごめん。私、今日は帰るわ。疲れてるんだ。」

と言った。

 そっか…
 ひょっとすると何か勘繰られたかもしれない。
 何だかんだ言って男だしね…

「疲れてるなら早く帰って休んだ方が良いね…」

「うん、そうする。今日はありがとう。楽しかった。」

「こちらこそ、ありがとう。僕も楽しかったよ。」

「またね。今度寄せてもらうわ。」

 美優はとても綺麗な笑顔でそう言った。
 良かった…
 この笑顔は本物だ。

「うん。是非」

 美優は別れ際、ギュッとハグしてくれた。
 僕もハグを返した。
 美優よりも強く。
 美優の温もりを、今度は全身で感じながら。

 
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