第75話 とってもお似合いですよ 

文字数 816文字

「申し訳ございませんが…、そろそろ閉店時刻なので、お会計よろしくお願い致します。」

「ええっ!!もう??」

 みんな同時に言葉を発して時計を見た。

「そうなんです…。いつもいつも申し訳ありません。もっとゆっくりして頂けると嬉しいんですが、あいにく…」

顔馴染みの店長さんが、わざとらしく顔をしかめながら時計の方を振り向いてそう言ったのでみんな笑った。来る度にいつも同じやり取りしてるんだ。店長さん、今日もまたサービスのようにそれをやってくれた。
 ほんと、楽しい時間って、アッと言うまに過ぎてしまう…
 
 あの時からずっと同じ。僕らが初めて三人でこのお店に来た時もそうだった。
 ただ、関係性は大きく変わっていた。あの頃、予想だにしなかった不思議な関係が生まれていた。一番可能性が低いはずの二人が、こうやって引っ付いていた。
 店長さんもそれとなく勘づいたようで、僕と憲斗を見つめながら、

「とてもお似合いですね…」

そう言って優しく微笑んでくれた。

 思わず笑みがこぼれた。
 嬉しかった…
 だって店長さん、僕が男だってこと知っててそう言ってくれてるから…


 店を出るや美優はいきなり僕と憲斗の間に割って入って二人の腕を掴むと、

「今からユウキん家行くよ!」

って高らかに言った。

「う、うん…、いいけど…」

「いいけど…何よ?私がいちゃ、邪魔?」

「いや、全然邪魔なんかじゃ無いよ!」

「ええっ!邪魔じゃないのぉ?つまんなぁい!だったら遠慮なく行くぅ!今日は徹底的に二人の邪魔すんだから!」

そう言うと美優は、僕らの腕をグイグイ引っ張って歩き出した。

 全然邪魔なんかじゃないよ
 今夜は美優とも一緒にいたい
 ただね、美優が真ん中だとさ…

   ねえ、憲斗ぉ!

 …でも、いいんだ…
 こういうのも素敵だよ。
 美優の肌から憲斗の温もりが伝わってくる。
 多分、憲斗も同じこと感じてるんじゃないかな。

 僕らは他愛のない話に花咲かせながら、街路樹の並木道を横一線になって歩み進んだ。
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