第46話 食べちゃいたい

文字数 1,018文字

 
 フィルム式カメラによる撮影は一通り終わった。
 最後に、差し当たってのポスターの見本を作るため、デジカメでちょっとした“繋ぎ”の撮影が行われる。映像制作担当の部員がその写真を受け取り、直ぐに模擬のポスターをパソコンで作成する。それを今ここでメンバー全員が見て、およその作品像を共有し、荒井さんにそれをチェックしてもらうのが狙い。

 撮影はすべて無事終了した。
 模擬のポスターができあがるまで、荒井さんやアシスタントの人たちと、お菓子食べながらワイワイ団らんの時間を過ごした。荒井さんノリ良くて、メッチャ話も楽しい。

 そんな中、荒井さんが突然僕の方を見て、

「ちょっと失礼な質問しますけど、もし間違っていたら逆に褒め言葉と受け取って下さいね…」

って切り出した。

「ユウキさんって…、もしかして男性ですか?」

 これには僕もビックリ。大学入学以来、僕を男って見抜いてくれた人は一人もいなかったから。

「ええ、男です。」

僕がハッキリそう答えると、アシスタントの人たちがみんな絶叫した。文字通りの絶叫。みんな唖然とした顔してる…

「男だって分かりますか?」

「最初はまったく分かりませんでした。正直、今も信じられません。ただ、撮影しているうちに段々不思議な感じに捕らわれてきたんです。ひょっとして…って思い始めて…」

「どこで気付かれたんですか?」

「目です。」

「目?」

「そう…それも目だけなんです。ユウキさんの顔も、声も、躰のラインも、手や足や喉元やうなじ、身のこなしだって、どれをとっても女性そのものですよね。でも、目の感じが明らかに今まで撮った女性の視線と違っていました。何だろう、この不思議な雰囲気…、って、撮影の間ずっと思ってました。」

 荒井さん、そう言うと、今度はシオン先輩の方に向き直った。

「だってシオン君、教えてくんなかったんだもん…。シオン君も、ユウキちゃん撮ってて楽しいでしょ?」

「ええ、興味尽きないっす。」

「でしょうね。私も楽しかったもん。なんか久しぶりに興奮したわ。」

「俺なんか興奮しっぱなしっす。」

 そう言うと、周りから、

“シオン先輩は違う意味っしょ!”
“シオンが言うとエロい!”

って、散々非難に晒されてた。

 荒井さんは笑って、

「私もシオン君と同じ意味で興奮したかもよ。ゾクゾクしたもん。ユウキちゃん、食べちゃいたいっていうような…」

「俺もユウキ、食べちゃいたいっす。」

 シオン先輩がそう言うとまた非難の嵐が沸き起こった。
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