第74話 美優の笑顔

文字数 1,136文字

 幸せいっぱいな時って、幸せ過ぎて不安になるのかもしれない。なんだか現実とは思えなくて、いつか裏切られるような気になってしまう。せっかくこんな素敵なシチュエーションを、大好きな人が作り出してくれているのに。

 ずうっと、夢にまで見たことじゃん
 今も髪に優しい指使い感じる
 めっちゃ愛情感じる
 幸せ
 なのにさ…

 純情なユウキちゃん、ケモノのユウキちゃん…、そんな矛盾した自分自身の狭間で幸福感に酔いしれながらも、なぜか妙に感傷的な気分に陥りかけていた。
 そんなとき、突如、救世主が現れたんだ。

「よおぉ!ポンコツ姫に、憲斗ぉ!」ってね。

 美優だった。

 ああ…、おっしゃる通り…、ほんと、ポンコツ姫…
 でも、美優にそう言ってもらえるとホッとする。なんでだろ…

「ユウキ、何度もメールしたのに返信来ないからさぁ、どうせこんなこったろうなぁ、と思って、それで…
 二人の邪魔しに来たの!」

 僕は慌てて憲斗の体から離れ、必死に前髪を整えながら言った。

「あ、ご、ごめん…。でもさ、美優…、集まりはもう終わったの?」

「うん、なんか半端に飲み会みたいなのが始まっちゃったからさ、帰ってきた!」

「えっ、大丈夫なの?」

「うん。男も女も、自称 “意識高い系” のウザい奴ばっかだし、こっちの方が楽しそうだから、こっち来た!憲斗、お邪魔だったかしら?」

 すると、憲斗、

「い、いや、全然…、大丈夫…」

って焦ったような顔して答えた。

「全然って何よ!そこはユウキのために、“今日は遠慮して”、ぐらいのこと言いなよね!ま、そう言われても絶対帰んないけどね!ユウキもせっかく誘ってくれたんだし、このお店、久しぶりに三人で来たかったから、今日は目一杯、二人の邪魔すんだ!」

 ちょうどその時、テーブル席が空いた。それを見るや、美優は、

「ほら、あっち行くよ!」

って、僕らを向こうへ促した。

 普段なら僕は、美優と二人並んで奥に座る。でも、今日は、

「オラオラ、そこの二人!奥に並んで座んな!」

って、憲斗と二人並んで座らされた。そのうえ憲斗は、

「コラァ!ちゃんとユウキの手を握っててあげなよ!」

なんて追い討ちかけられてた。
 憲斗、慌てて僕の手を握った。
 笑える…
 僕も強く握り返した。すると二人、何かに引き寄せられるようにぴったりと体を寄せ合った。
 それを見た美優が肩をすくめ、ちょっとおどけた表情をした。それから僕の目を見つめながらこう言ったんだ。

「ユウキ…、良かったね」

って。

「あのさぁ、二人とも分かってる?めっちゃお似合いなんだよ?羨ましいくらい素敵。特にこっちのポンコツヒメ…、まじクッソ綺麗!幸せそうな顔しちゃってさぁ、ムカつく…」

そう言って、微笑んだ。

 美優の笑顔こそ、普段にも増して綺麗…
 この笑顔、マジ、好き…
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