第5話 必死のイモウト君

文字数 1,166文字

 春は新入生を勧誘するイベントで忙しい。
 今日は講堂を借り切っての、STINGS新入生勧誘説明会。

 説明会とは言っても、STINGSの活動内容の説明報告、といったありきたりのものではない。むしろ勧誘活動ってのが口実にすら聞こえるSTINGSにとって最大イベントの一つだ。勧誘会なのに本格的なプログラムまで配布される。

 この日の為に制作したショートショートの映画、部員自らが創った主題曲の歌やダンスに演奏、照明とCG映像による大がかりな舞台アートなど、個々の部員がこぞって自分たちの個性を発揮する重要な場だ。一応勧誘に繫がるように、という制約があるにはあるけれど…

 力の入った演出が評判を呼び、新入生勧誘という名目でありながら、例年、在校生や他の大学の学生たち、それに近くの高校生さえもたくさん見にやってくる。今や入学時の、大学恒例行事と言っていいかもしれない。
 結果、これに魅了された新入生が大勢入ってくるという仕組み。この試みはかなりうまくいっている。


 去年は、僕も大いに魅了された一人だ。でも、今年は主催する側に回る。もうドキドキだ。

 僕が出るのは舞台劇。
 劇とは言っても、舞台セットや装飾は一切無い。空のステージで、僕たちが創ったアナログ映像や、持てる技術を駆使したデジタル画像だけを背景に、部員が演劇をやるというもの。
 大袈裟に言うと…、ホントに大袈裟に言うとね、映画とデジタルアートと演劇の、ちょっとしたコラボ…そんな感じ。

 ただ、目的は新入生の勧誘なので、娯楽色一辺倒の単純明快なお話。むしろこの分かりやすさが受けているのだろう。アクロバット的なアクションやお笑いもあって楽しめる。今やイベントの最後を飾る目玉だ。
 僕も去年、この映像劇が一番印象に残った。特に、島田先輩の演技に憧れて入部を決めたんだ。

 今年の劇のあら筋も至って単純。
 ヒロインは、悪魔の手から国を救ったものの、民衆の命とひきかえに自分にかけられた呪いのため、国を去らなければならない美しきプリンセス。その彼女を支え、ともに戦い続けてきたイケメン家臣君、この二人のラブロマンスだ。
 で、僕はと言うと…
 このイケメン家臣君の〝妹〟役。
 またもや妹役…、なのです…
 
 でも、全然不満なんて無い。
 2年生で出させてもらえるだけで光栄なのに、ラストの一番大事なシーンまで任せてもらったんだ。
 新入生の勧誘はすべてここにかかっている…と言っても過言でないほど重要なシーンを、なんとこの僕に。

 僕なんかに去年の島田先輩の代わりが務まるのだろうか?
 もう不安で不安で仕方が無い。

 だから毎日たくさん練習してきた。この日のために、今日も朝から一人…
 でも朝起きてからずっと心臓がバクバクしっぱなしだ。心臓が飛び出しそう…
 
 今日の僕は、朝から必死のイモウト君なの…です。
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