第40話 アタマ悪すぎ

文字数 1,045文字

 僕は、兵藤先輩に支えられてどうにか立っていられる、そんな惨めな有り様だった。

 壁ドンされただけで何された訳でもないじゃん、って思うかもね
 そう…
 壁ドンしただけじゃん…、他は何もしてないよ…
 そう言うんだよね、やった人って…
 後でそう言えるように、"何もしない" の…
 前もそうだった…
 似たようなことがあった…
 おまけにさ…、こいつそもそも "オンナ" じゃないじゃん、って…
 だったらどうなんだよ…

 怖いって分かんないかな?
 嫌だって想像できないかな?
 こんな目に会わされてんのに…、なんで僕の方が笑われてるような気になるんだろ…

 だいいち…
 壁ドンなんて…
 まさか、こんなことされて喜ぶと思ってんじゃないよね?
 つまんないビデオの観すぎだよ…
 チョー頭ワル過ぎ!
 しかも力任せにカラダ押し付けてきて…
 あのね、まったく気が無い人だと、ちょっと髪の毛触れられるだけでもやなんだよ!
 なのに…
 あの感触…、思い出すだけで吐き気がする…
 マジ、鳥肌立ってくる…
 杏先輩はされて喜ぶ口かな
 安っ…
 お似合いだよ

 そんな時、兵藤先輩が、

「ひなたちゃん、ユウキさんを部室に連れて行ってあげて…」

って、僕をひなちゃんの手に渡した。
 ひなちゃんは直ぐに僕の手を取ってくれた。と同時に、傍にいた美優も反対から腕を握ってくれた。

 このとき僕は全身震えて、支えられて立っているのがやっとだった。でも、敢えて女の子の手にバトンタッチしてくれるところが兵藤先輩らしい。サカキと同じ年月を生きてきた同じ男子なのに、この違いは何?って思った。

 男がこんな目に会わされて抵抗もできず、しかも女の子ふたりにやっと支えられて…なんて情けない話と思われるだろうけど、そんなこと、もうどうだっていいよ。ありがたく好意は受けよ…。自分が力になれるときは力になってあげよ…。必要なときはこんなふうに助けてもらえるように生きよ…。それしかできないから
 力に対して力で、なんて僕には無理
 絶対ムリ…

 一年生たちが心配そうに見守りながらついてきてくれた。
 ありがとう…
 ただ、好きな人たちの目の前でこんな仕打ち受けるのって辛い。辛すぎるよ…。見る勇気無いけど、みんなとても悲しい顔してるの分かるもん。
 こういうのって、自分が辛い以上にもっとこたえる。サカキみたいな男には絶対分かんないと思うけど…

 みんなの顔見ないように、普段は軽快に上る大好きな漆喰の階段を、今日は重い足取りで踏みしめていた。一段一段、ただ足元だけを見つめながら…

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