第12話 プリンセスって、わたし…

文字数 1,677文字

「今日のあの意味不明な劇なんだけどさ…、あれって、秋の映画祭への出展に向けて構想してる映画のパロディーのイメージで作ったんだ。
 そんでまあ、秋に向けて本体の方、これから作んだけど…」

 シオン先輩は僕を見て、いたずらっぽくニヤッと笑った。

「ユウキ、お前、主役張って!」

「えっ、わたしがですか?」

「そう」

「主役って、まさか…」

「うん、プリンセス」

 シオン先輩は、肉に野菜を巻いた何とかって料理をバリバリ食べながら、軽くそう言ってのけた。

 ブリンセス?
 これにはさすがに美優や憲斗も、驚いた表情をして顔を見合わせた。

「で、憲斗と美優は親衛隊の隊長。ユウキのためにカラダ張んの。」

「プリンセスって、わたし…」

って言おうとすると、シオン先輩が突然ゲラゲラ笑い出した。

「お前、面白いな。美優と憲斗には、僕…、なのに、俺には、わたし…、なんだな。」

「済みません。これ、自分でも分からないんです。美優と憲斗には、"僕"って言わないと変な気がするんですけど、ほかの人にはまだ言えないんです。」 

「ホンマやな。そやけど、最初は俺にも、"わたし" …、やったな。」

「ほんと。私にも最初は、"わたし" …、だった。」

「うん、憲斗と美優にはいつの間にか"僕"って言うようになってたんだ…」

「二人には打ち解けてるんだな。俺はまだ "ほかの人"…か。ちょっと悔しいよなあ…」

「いえ、そんなつもりじゃ…。変なバイリンガルになってるんです。しかも自分の意思で操れない…」

「あはは…、すげえバイリンガルだな!俺もユウキファミリーに混ぜてもらえるように頑張ろ…」

「頑張るって、そんな…、十分シオン先輩には…」

 シオン先輩は、もう僕の話なんて聞いちゃいなかった。

「で、王子は取り敢えずサカキってことで…、ま、取り敢えず…」

 えええっ!

 これには三人が一斉に声をあげた。

「そ、それ、マズくないですか?だって杏先輩が…」

「ああ、それだったら大丈夫。さっきあいつの許可もらったし。」

「ほんとですか?」

「ああ。毎年秋の映画の主役って、三年生がなんじゃん。だから杏にも一応、今日のお詫びと言っちゃあなんだが、プリンセスの役やってくんねっかな…って頼んだんだ。カタチだけ。マジ、カタチだけ…。そしたらさ、

 まあぁ。なぁに言い出すかと思ったらぁ。わ、た、しぃ、ゼェェッタイに、イ、ヤ、ですから。プリンセス役、ユウキ、サ、マ、にでも頼んでみてはどうよ?

 …だってさ。アハッ、超ラッキー。ユウキで決まり!」

 シオン先輩のモノ真似が表情も含め、めちゃくちゃソックリだったので、僕ら三人は一斉にうつむいて笑いをこらえた。

 ウケる…
 あの人、確かにそんな言い方する…(笑)

「最初っからその答え期待してたからコチトラとしてはありがたい。予定通り、ユウキでいくわ。」

 僕は、さっきまでの憂うつはいったい何だったんだろ、って思うくらいすっかり立ち直っていた。自分の単純さが逆に怖くなる。
 でも、この三人のお陰なんだ。特にシオン先輩はその為にこうやって楽しませてくれているのだろう。

 いちいちヘコタレてたら切りないな。
 もう後戻りできないし…
 さっき、必死です、なんて言った奴はどこのどいつだよ…

「分かりました。やらせて下さい。美優と憲斗と一緒にやれるのも嬉しいですし。」

「ホンマやな。去年はみんな別々やったもんな。」

「そうだね。」

 二人も相づちを打った。

「良かった!じゃあ、プリンセスはユウキに決まり!
 でも、ユウキがプリンセスやんなら、俺、王子サマ役やろっかな。サカキ外してさ…」

「ダ、メ、で、す!シオン先輩が王子なんてやったら、ただのエロ王子の話に変わっちゃうじゃないですか。」

「あれ?美優、何で分かるの?おかしいな…」

「じゃあ俺らは、エロ王子からプリンセス守る役かいな。どんな話やねん…」

「憲斗、黙れっ!お前に決定権は無い!」

 さっきまでとは一変して僕らのテーブルはすっかり賑やかになった。段々人も集まってきた。いろんな人と話しができた。いっぱい笑えた。
 結局最後は心底楽しいと思える打ち上げに終わって本当に良かった。
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