第38話 セクハラ

文字数 1,261文字

 僕が最近このサークルで使う一人称は、たいてい“僕”。前は憲斗と美優にしか言えなかった“僕”って一人称を、今ではほとんどみんなに使ってる。
 ずっと使ってきた言葉だからその方が安心するんだけど、知らない人にいきなり“僕”っていうと、“えっ!” て顔される。僕は誰が見ても男には見えないみたい…
 だから、僕のことをあまり知らない人には使わないようにしている。英語だと一人称は“I”だけだから楽なのに、この点日本語は面倒臭いね。でも、この使い分け、かなりうまくできるようになったと思う。

 映画班では、気兼ねなく“僕”って言えるからとっても居心地良い。安心してそう言える環境なんだ。
 ただ、こないだシオン先輩にうっかり“僕”って言っちゃったら、よっしゃあ!ってガッツポーズされた。これでユウキは俺のモノ!とか、わけ分かんないこと言ってんの。嬉しそうなドヤ顔して。
 ムカつく…

 シオン先輩はともかくとして、やっぱり例外はある。どうしても“僕”って言えない人が若干2名ほどいるんだ。
 一人は映像制作リーダーの琴音先輩。この人についてはいずれお話し致します。
 もう一人が、なんとサカキ先輩。お相手のプリンス役です…

 実は僕、サカキ先輩、苦手です。正直、どうしても好きになれません。いや、ハッキリ言います。

  嫌いです!

 外見は超イケメン。本人の自信も相当なもの。お名前は “イケメン” なの?ってくらい、イケメンって言葉が聞こえただけで振り向くほど。
 でも、んなこたぁどうだっていいんです!
 とにかく…
 
  嫌いです!
 
 こないだの新入生勧誘イベントでは直接絡む場面は少なかったし、絡むところもカノジョの杏先輩監視のもとだったから特に問題は起きなかった。でも今回はちょっと違う。触れあう場面が多い上に、杏先輩の目が無いからいろいろやってくる。しかも周りの人に気付かれないようにやってくるんだ。それとね、この人、しつこい!
 こないだ、何回もお尻触ってくるからマジで睨んでやったら、ごめん、ごめん、当たっちゃった…、だってさ!
 ウソつけ!
 何で両手いっぺんに当たって、しかも掴む必要あんだよ!
 最っ低…

 それに、まだ本格的な撮影に入る前で、全体の流れの確認段階だから、抱き合うシーンだって演技しなくていい筈なのに、なぜか抱きしめてくる。それもかなり強く。やだから離れようとするともっと力入れて体引っ付けてくるんだ。
 さすがにその時は、ちょっとやめてよ、って言ったら、美優が気づいて、「やめなさいよ!」って怒ってくれた。

 こういうのって、セクハラ、だよね。僕も分かってる。だからほんとは声を上げてハッキリ言うべきなんだけど…。何でだろ…、それを言うことに気が引けてしまうんだ。なぜか恥ずかしさや後ろめたさを感じてしまう…
 女性ならハッキリ言えるのかな。でも、そうとも限んないかもね。だって、こんなことされたら、誰だってさ…

 ダメだよ…、こんなことしちゃ、絶対…

 で、僕が曖昧な態度をとるから、図に乗ったんだろね。さらに調子づけてしまったんだ。
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