第6話 お目当ては僕?

文字数 1,209文字

 いよいよこれからだ。
 舞台裏からカーテンをめくって会場をそっと覗き見る。

「ウワッ!」

 すごい人…
 満員だ。
 立ち見までいる。
 去年より明らかに多い。
 それに…

「今年、高校生多くない?女子も男子も…」

 そう言って振り向くと、同級生の憲斗が、関西弁ですかさずこう答えた。

「みんな、お前目当てや!」

「えっ?」

「知らんのか?さっきも女子高生らが、ユウキ君はどれに出るの?ってパンフレット一生懸命探しとったわ。」

「うそっ!」

 知らなかった…

「良いね、ユウキ、スターだね」

 傍から美優が笑いながら言った。

「今日のユウキサマは、また一段とお美しい…」

シオン先輩がからかうように言う。すると回りの女の先輩たちも口々に、

 すっごいよね…
 マジ、キレイ!
 ちょう、かわいい~

とか言ってキャーキャー騒ぎ出す始末。

 でもその時突然…
 何か得体の知れないものに、全身をドップリ覆われていく感覚に襲われた。文字通り "襲われ" たんだ。今さら情けない話だけど…
 
 舞台衣装とは言え、僕は今、上下白を基調とした、膝上まで足が露わになったミニスカートのド派手なコスチュームに身を包み、ばっちりメイクしてもらった顔には金粉まで散りばめている。おまけに髪はブルーに染めて、ゴールドのヘアリング、ってそんな姿だ。
 
 僕、何やってんだろ…
 こんな格好で、今からこんな大勢の人たちの前に出なきゃいけないなんて…

 自分が男でも女でも無い、おぞましい生き物のように感じ、逃げだしたい衝動に駆られた。

 何勘違いしてんだろ…
 全然綺麗でも何でもないよ…
 化けもんじゃないか…

 舞台に上がった瞬間、嘲笑や侮蔑に晒される惨めな自分の姿が浮かんできた。

 帰りたい…

 でもその時、横から美優が肩を抱いて、こう言ってくれたんだ。

「ユウキ、めっちゃ綺麗じゃん!みんなユウキを楽しみに待ってんだよ。これなら絶対大丈夫!みんなをビックリさせてやんなよ!」

 僕は美優の声に、はっと我に返った。

 美優の顔を見つめる。美優は笑っているけど、緊張を隠せない表情だった。美優だってこれから大事な本番なんだ。なのに僕の異変に気づき、心配までしてくれている。

 ああ、ごめん!
 ホント、何やってんだろ…
 しっかりしなきゃな…
 美優だって、これから体張った大変な演技しなきゃいけないから、僕のことなんて心配してる余裕無いはずなのに…

「ユウキ、何心配してるねん?めっちゃ似合っとるわ。お前やからサマんなるねん。自信持て!みんなお前目当てやねんから。」

 今度は憲斗だった。

 ホントにダメだな、僕は…

 ちょっと天を仰ぐ。
 気持ちがだいぶ楽になる。

「ありがとう。大丈夫だよ。みんなも頑張って!」

 もうホントに大丈夫だ。
 やりたくないなら最初っから断ればよかっただけの話。
 僕はあの時、やりたいって答えたんだ。
 よし、やる!
 島田先輩を超えてやる。
 僕は想像以上に単細胞なんだ。

 今度は僕がみんなに笑いかけた。
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