第69話 オトコ、好きです

文字数 823文字

「話変わるけど、アタシさあ…、なんだかんだ言って、オトコ…、好きなんだよなぁ…。憧れるとこあるんだ。なんか、いいなぁ、コイツら…、どいつもコイツも好き勝手やってて。バカだしさ。それも正真正銘のバカじゃん…」

「ええ、わたしも、オトコ大好きです。わたしはずっとオトコになりたかった訳ですし…。むしろ、オトコじゃない自分をどうしても受け入れられなかったんです。まだまだ葛藤はありますけど、それでもだいぶ受け入れられるようになりました。」

「受け入れられて何か変わった?」

「ええ、変わりました。男の人を好きになるようになりました。恋愛対象として…、本気で…」

「んなこと見てりゃ分かるよ!誰なのかも…」

 そう言って琴音先輩、軽くタバコの煙を顔に吹きかけてきた。

 今日は琴音先輩の笑顔を何度も見た。多分5年分くらい。
 くっきりと整った綺麗な鼻筋。濃いめのアイシャドーは、切れ長のキツい目に、より意思の強さを鮮明に刻み込む。

 で、そんな琴音先輩が僕の顔をマジマジと見つめながら、唐突に、

「アンタ、やっぱ良いね。今度、やらせてよ。どんな味すっか興味あるし…」

なんて真面目な顔して言うもんだから、エエエッ!て大声あげて見詰め返した。

「いちいちそういうウゼー反応するとこが、ドMだよな。マジ、可愛がったげんのに、上も下も…」

 う、上も、下もって…

 アタフタしている僕を横目に、またもう一本タバコに火を灯した。
 全然余裕って感じ。
 本気なのか冗談なのかも分かんない…。

 でもそれ以上に、今言ったことなんてとうの昔に忘れたみたいな顔して、こんなこと言うもんだからもっと驚いた。

「アンタ、良い目してる。男の目なのか、女の目なのか、んなことどうだっていいじゃん…。とにかく良い目してる…。誰ん対しても優しい目してるよ。アタシみたいなどうしようもないクズにまでさ…」

 えっ、何言ってんですか!琴音先輩…

 そんなとき、美優がやって来たんだ。ビール瓶とグラス両手に、ご機嫌な顔して。

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