第58話 憲斗とのハグ

文字数 733文字

 気が付いたらいつの間にか僕らはいつもの三人。
 そしていつもの駅前広場。
 噴水の心地よい響き。
 賑やかな夕どきの町の喧騒。

「ねえ、せっかくだから三人でお茶してかない?」

思い切って声をかけた。このまま二人と別れるのが、今日はとっても惜しい気がしたから。明日また会えるのに。

 でも憲斗…

「ごめん、ユウキ。行きたいけど今日は俺、これからバイトなんよ。」

…だってさ

「そっか、残念だね…」

 あああ、ホントに残念…

「せっかく誘ってくれたのに悪いな…。俺も久しぶりにユウキとゆっくり話したかったけど…。」

 憲斗、ホントに残念そうな顔してる。演技じゃなさそう。
 じゃ、許したげる…

「そしたらさあ、ユウキ、二人で買い物行こうよ。」

って、今度は隣から美優の声。

「えっ、何買うの?」

「服。ユウキも一緒に選んでよ。丁度良かったわ、ユウキに服見てもらいたかったから。」

「そうなの?じゃ、一緒に僕のも選んでよ。美優にいろいろアドバイスもらいたかったから。」

「お、いいね。ユウキのコーディネートなら喜んでやる!やったあ!エロい格好させちゃお!」

「じゃ、俺もユウキにエロい…」

「憲斗はバイト行ってきて!」

「ええっ!」

「だってバイト行かなきゃなんでしょ?ユウキは今日、私が着せ替え人形にするの!エロユウキに変えちゃうんだ。憲斗にはあげない!」

 えっ、美優に着せ替え人形にされちゃうなんて…
 面白いかも!
 それに、エロユウキってのも…、ワクワク!


 憲斗とは駅前でお別れ。
 いつものようにハグした。
 厚い胸に顔埋めて、髪撫でてもらって…

 でも今日はなぜか、離れ際、いつものように笑って見つめることができなかった。
 なぜだろ…
 このままお別れするのが、本気で辛い。
 これから憲斗が隣に居なくなるってことが…
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