第45話 キスされそう

文字数 1,173文字

 
 今日はメインとなるポスター制作のための撮影が行われる。何回かに分けて行われるので、今日の撮影が必ずしも最終のものになる訳ではないけれど、概ね方向性が決まる。
 残りの回の撮影はほぼ微調整のためのもの。メンバー全員が映画全体のイメージを視覚的に共有する意味でも重要な撮影になる。
 撮影するのはプロのカメラマン。
 中央に大きく据えられるのは、この僕。
 当然撮影も僕にかける時間が長くなる。



 カメラの前に立つ。
 美術担当のメンバーたちが時間をかけて作ってくれた白い半透明の、ちょっとエロチックな衣装に身をくるめて。
 メイクやセットも一年生たちが一生懸命考えて、とっても綺麗に仕上げてくれた。
 緊張するけど、意外と快感。

 カメラを握るのはまだ年若い女性。荒井ヒトミさんっていう、最近人気のカメラマン。この人の写真なら雑誌でたくさん見たことがある。僕が大好きな写真家の一人。
 最初、この人に撮られるって聞いたとき、思わず、きゃー、って悲鳴をあげた。やっぱ、僕、男じゃないね…

 荒井さんの被写体は女性が圧倒的に多い。ちょっとシュールな作風だけど、女性が奥に秘める不思議な魅力を、巧みに引き出すことに長けている。
 ただ綺麗なだけじゃないんだ。へえっ、て思わず見とれてしまうような、女性の放つ神秘的な光や妖しさに溢れている。見ていて飽きない。

 僕にも、この人に引き出してもらえるような女性的な魅力があるのだろうか…、少し不安になる。

 さすが撮り慣れているだけあって気持ちを乗せるのがうまい。ただでさえおだてに弱い僕は、大好きな写真家に散々おだててもらってすっかりご機嫌だった。多少エッチなポーズも、この人の言葉にかかると躊躇なくやれてしまう。
 じゃ、今度は服、脱いでみて…、なんて優しく言われたら、簡単に脱いでしまうかも。

 撮影は順調に進む。
 とっても気さくで明るい喋り口調だけど、眼光は鋭い。鷹が獲物をあさる時の、そんな目をしている。
 やっぱ、プロの写真家の目って違う。僕も食べられてしまわないようにレンズをキッと見返す。

 撮影中、ポーズを細かく指示するため、一度だけ近くに寄ってきたことがあった。あれこれ躰をいじって向きを変えた後、最後に僕の頬を両手で挟んで、真正面からジッと見つめてきた。驚いたけれど、僕も負けじと見つめ返した。
 キスできるほどの距離。
 しばしの間、目と目で見つめ合う。

「ユウキちゃん、不思議な魅力だね。撮っててワクワクする…。あともう少しだから辛抱してね。」

 ちっちゃな声でそう囁くと、荒井さん、今度は僕のおでこに、額をぴったりと引っ付けた。僕の両頬、手で包みながら。
 鼻が触れる。
 今にもキスされそう…
 でも、ニッコリ微笑むと、また元の持ち場に戻っていった。
 周囲のみんなも、ビックリした様子。

 再び心地よいシャッター音が部屋に響く。

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