第3話 僕のルックス

文字数 1,017文字

 シャワーの後、タオルで長い髪を拭きながら鏡を見つめる。
 メークを落としても僕はそれほど変わらない。
 色は真っ白で肌はスベスベ。ヒゲはもちろん、毛なんてほとんど生えていない。ほっそりとした白い指。長いまつげはクルリと巻いて、おまけにふたえのお目々はパッチリだ。目の下の “プックリ” だって、とても魅力的……らしい。

 ああ、やっぱり僕のルックスは正真正銘 ”女の子” なんだなって思う。自分で言うのも何だけど、みんなが口を揃えて “綺麗” だとか “可愛い” なんて言うのは、よく…分かる。

 悪い気はしない。
 嬉しいよ。
 でも、やっぱりね…

 喉ぼとけすら無い真っ白な細い首だけど、その下に広がる小さな胸は、男のカラダ、と言えばそう見えなくもない…かも。ただ、胸の膨らみが小さな女の子なんていくらでもいるだろう。僕はどう見てもその、胸が小っちゃくて、真っ白で、華奢な、正真正銘の"女の子"なんだ。
 それでも決定的なのは…

 下着の中をそっと覗き込む。

 そう
 間違いなく
 男だ
 しかも、意外と立派なんだよ…

 あああ…と呟く、と同時に美優の姿が瞼に浮かぶ。

 僕の恋愛対象は女の子だけです…
 そう言うとみんな意外な顔をする。
 だったら何でそんな格好してるの?
 なんて聞く人もいる。
 でも、恋愛対象が女の子ってのは昔から変わらない。多分これからも変わらないだろう…

 べつに同性を好きになるのがおかしいなんて言ってるんじゃない。そんなこと全然思わない。僕も何度か男の子に告白された。僕を初めから男と分かっていてだ。みんな驚くほど真剣で、断るのが辛いくらいに魅力的な人ばかりだった。
 ただ、僕が恋愛感情を抱くのはいつも女の人だっていう、単にそれだけのお話です…

 
 今は美優のことが好き。本当に好きだ。彼女のことを思うだけで切なくなる。

 美優
 君はきっと、僕を恋愛対象とは見てくれていないだろうな。君にとって僕は、気の置けない同性の親友。
 ひょっとすると、それはそれでいいのかもしれない。この容姿のお陰で君の近くにいられるから。そして今日みたいに手をつないだりハグしてもらえるから。

 でも、それは僕の本音じゃない。
 恋人と親友は違う。
 全然違う。
 僕は君の大切な友人ではいたくないんだ。      
 いつかきっと…

 ふさふさでツヤツヤの、"とっても綺麗な" 長ぁい髪を、ドライヤーで一生懸命乾かしている鏡の中の自分を見つめながら、そんなことを思った。
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