第44話 陽だまり

文字数 1,286文字

 以上の変化に伴う配役やストーリーの変更に関する細々(こまごま)とした説明が続いた。どれも直接的には僕に関係が薄い話だったので、少し緊張が溶けた。

 今日は窓を開けていても暖かい。心地よい風にカーテンが舞っている。部屋の片隅に置かれた花瓶の周りには、薄いブルーの陽だまりができている。
 ホントに暖かい。部屋の温度もだけど、この空間の雰囲気が、とっても…
 小さい頃、授業中にポケーッと教室の片隅を眺めていた、あの時の心地良さに似ている。先生の声だけ遠くに響いて、僕は好きな女の子のこと考えたり、別の世界の登場人物に成りきっていた、あの時の恍惚とした気分に。

 この空間好きだ。今ここにいる人たちみんな好き。昨日あんなことがあったばかりなのに、この心地良さは何だろう。
 先生の声に代わって耳に響くのはシオン先輩の声。話の内容は何も聞こえていないし聞いちゃいない(シオン先輩、ごめん…)。でも、シオン先輩の声、とっても素敵。
 寝る気満々だったけど、眠るのがもったいない。
 ずっとこうしてたいな。
 恍惚感、半端ないよ…

 ふと目を上げると、たまたま兵藤先輩と目が合った。僕がちょっと微笑むと、慌ててお辞儀をして目を逸らした。
 笑える…
 でも、今の目、変な視線じゃなかった。明らかに僕を気遣う優しい目だった。何となく様子がおかしいと思ったのかな。
 ご心配無く。こんなに幸せですから。

 そんな時、ちょうどシオン先輩の話も一区切りついた。

「今回の件は、ユウキには申し訳ないことをしたと反省してる。ごめん。」

「ん?何でシオン先輩が?」

「最初からこの配役にするべきだったんだ。俺もそうしたかった訳だし。でも、何となく慣例の方を重視しちまった。
 それに、サカキがユウキにちょっかいかけてるのは、俺も薄々感づいてた。だから、もっと早く対応しなきゃいけなかったんだ。この点は本当に申し訳なかった。
 今回の映画はめちゃくちゃストーリーの分かりやすい娯楽一辺倒の話だろ?こういうものこそ、お前の変なカリスマ性が映画全体に強烈に活きてくるんだ。ほとんどお前次第なんだよ。
 だからこそ、昨日みたいなことは絶対あっちゃいけない。みんなで、コイツが安心して楽しんでやれる環境を作っていかなきゃいけないんだ。だから、頼む、みんなもコイツを全力でサポートしてやって欲しい。コイツ、こう見えてやるときはやるし、普段見えないところで、一生懸命やってくれてるのは、みんなもよく分かってると思うんだ。」

 全員肯いてくれた。兵藤先輩が腕組みしながら、うんうんって、2回大きく肯いたのが印象的。
 それから、シオン先輩、僕の方にあらたまって向き直って、

「とにかく俺もみんなも全力でお前をサポートするって約束する。だから、お前も今まで以上に心してやってくれ。」

って言った。

 で、メッチャ眠いときに突然そんなこと言われたもんだから、驚いて、

「は、はい。ありがとうございます。シオン先輩も兵藤先輩も、ここにいるみんな大好きです!」

って、わけ分かんないこと言った。

 二人とも目を丸くてしていた。
 でも、お陰でとっても良い雰囲気で練習に入っていけました。

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