第37話 チケット二枚
文字数 1,980文字
「僕、あの子と映画を観に行ってれば良かったって、勝手なんだけど、その時になって後悔した。こんな自称"イケてる"頭悪い田舎モノの中にいたって、ちっとも…。
ま、僕はそれ以下なんだけど…
ただ、もう、早く帰りたくて帰りたくて仕方なかった。でも、抜けるに抜けらんなくてさ…、それで夕方くらいまでカラオケボックスにいたのかな。
やっと帰ることになって、お店出た時には心底ホッとした。外の空気があんな爽やかに感じたことってなかった。それで駅に向かってダラダラ歩いてたら、その途中にある映画館から、突然あの子が出てきたんだ…」
「えっ、一人でですか?」
「そう…」
「向こうも気付いてました?」
「うん。僕と目があって、慌てて建物の中に隠れちゃった。だから、僕以外は誰も彼女に気づいてなかった…」
「それでユウキ先輩、どうしたんですか?」
「みんなと駅で分かれた後、もう一度そのビルに戻って探したんだ。でも、もういなかった。その日、何度も電話やメールしたけど、ブロックされてた…」
「学校では?」
「完全に無視。もう目も合わせてもらえなかった。悪いのは僕だから仕方ないけどね…」
しばらく沈黙が続いた。
隣の女の子たちの笑い声が妙に甲高く聞こえた。
グラスの中のお酒を意味もなく振り回して、ただ揺れるのを見つめていた。
「ごめんね。こんな暗い話して。折角楽しかった雰囲気が台無しだね。」
ひなちゃんは笑いながら首を横に振った。
「ううん、ぜんぜん。逆にユウキ先輩の別の面を知ることが出来て良かったです。」
「うん。そうなんだ。さっき、ひなちゃん、僕のこと優しいって言ってくれたけど、全然そんなことない…」
「そういう意味じゃなくて、憧れのユウキ先輩もいろいろ抱えてるんだなって分かってよかったって意味です。そういうことって、誰にでも似たような経験ありますよ。私にだって…
みんな同じようなことを、したりされたりして学んでいくんじゃないですか?」
「そう言ってもらえると少しホッとするけど…。ただ、あの子、僕と映画に行くこと、すごい楽しみにしてたと思うんだ…」
「そうだと思います。相手が憧れの人なら、女の子はなおさらですよ。」
「うん。僕ね、絶対やっちゃいけないことやっちゃったんだなと思って、死にたくなるほど悲しくなった。今でも、思い出すだけで…死にたくなるよ…ホント…
あのとき、彼女どんな思いしただろ…
マジ、最低だよね
クズだよね
二度と…あんなこと…」
「当たり前です。もし私にそんなことしたら絶対許しませんから!」
「うん、だね…。その時はどんな仕打ちだって受けるよ…」
「冗談ですよ!ユウキ先輩、そんなことしないの知ってますから…」
顔を上げると、彼女は普段の優しい目で僕を見つめていた。
「じゃあ、今度はいつもみたいに…、いや、いつもよりもっと楽しませ下さいよ。ユウキ先輩に会うの楽しみにしてる人、私の周りにいっぱいいますから。」
僕はひなちゃんを一層強く見つめた。
「1年生女子は全員です!」
「えっ、そうなの?だったらさ…、本格的な女子会やろうよ。美優や同級生に先輩たちも全員誘うからさ。なんか、ひなちゃんにそう言ってもらえたら、急にみんなと話したくなってきた。」
「良いですね!ユウキ先輩と美優先輩が来るなんて言ったら、1年生女子、他の班の子たちも全員来ますよ。他にもユウキ先輩たちと話したいと思ってる人、たくさんいますから。」
「えっ、ホント?嬉しいな!」
「美優先輩来てくれるんだったら、ナマ足見せてもらって、ケアの仕方教えてもらお!」
ひなちゃんは身を乗り出してそう言った。その楽しそうな表情を見ていると救われたような気分になった。
僕もやっと笑顔を取り戻せた。
「ナマ足、好きだね。意外と女の子、好き?」
「女の子、大好きです!だからユウキ先輩みたいな人にときめくんです!」
「あれっ?なんかよく分かんなくなってきたけど…。ま、いいや…
でも、それ良いかもね。僕も美優に教えてもらいたし。」
「じゃあ、そんとき、みんなで美優先輩とユウキ先輩のナマ足、どっちが綺麗か判定しましょうよ。美脚コンテスト開催です❗️」
「ええっ!美優、強敵だな…。でも、『最強リアル女子』に、『成り上がり女子』がどれだけ挑めるか勝負してみるってのもアリだね!」
「おっ、名勝負になりそう。じゃあ、私は自分の願いも込めて、美優先輩の勝利に…
一万円賭けます!」
「なんでよ!そこはウチに賭けるべきっしょ!!」
今日はとっても楽しかった。女子会、絶対やろ。女の子全員に、誰一人漏らさずにそれ伝えるんだ。
それと今作ってる映画のチケット、できたらあの子に送ろう。チケット二枚。彼氏でも、仲のいい友だちでも、もし一人なら一人でも構わない。とにかく、来て欲しい。
来てくれるかな…
彼女の姿、劇場で見つけられたら、どんなに嬉しいだろう…
ま、僕はそれ以下なんだけど…
ただ、もう、早く帰りたくて帰りたくて仕方なかった。でも、抜けるに抜けらんなくてさ…、それで夕方くらいまでカラオケボックスにいたのかな。
やっと帰ることになって、お店出た時には心底ホッとした。外の空気があんな爽やかに感じたことってなかった。それで駅に向かってダラダラ歩いてたら、その途中にある映画館から、突然あの子が出てきたんだ…」
「えっ、一人でですか?」
「そう…」
「向こうも気付いてました?」
「うん。僕と目があって、慌てて建物の中に隠れちゃった。だから、僕以外は誰も彼女に気づいてなかった…」
「それでユウキ先輩、どうしたんですか?」
「みんなと駅で分かれた後、もう一度そのビルに戻って探したんだ。でも、もういなかった。その日、何度も電話やメールしたけど、ブロックされてた…」
「学校では?」
「完全に無視。もう目も合わせてもらえなかった。悪いのは僕だから仕方ないけどね…」
しばらく沈黙が続いた。
隣の女の子たちの笑い声が妙に甲高く聞こえた。
グラスの中のお酒を意味もなく振り回して、ただ揺れるのを見つめていた。
「ごめんね。こんな暗い話して。折角楽しかった雰囲気が台無しだね。」
ひなちゃんは笑いながら首を横に振った。
「ううん、ぜんぜん。逆にユウキ先輩の別の面を知ることが出来て良かったです。」
「うん。そうなんだ。さっき、ひなちゃん、僕のこと優しいって言ってくれたけど、全然そんなことない…」
「そういう意味じゃなくて、憧れのユウキ先輩もいろいろ抱えてるんだなって分かってよかったって意味です。そういうことって、誰にでも似たような経験ありますよ。私にだって…
みんな同じようなことを、したりされたりして学んでいくんじゃないですか?」
「そう言ってもらえると少しホッとするけど…。ただ、あの子、僕と映画に行くこと、すごい楽しみにしてたと思うんだ…」
「そうだと思います。相手が憧れの人なら、女の子はなおさらですよ。」
「うん。僕ね、絶対やっちゃいけないことやっちゃったんだなと思って、死にたくなるほど悲しくなった。今でも、思い出すだけで…死にたくなるよ…ホント…
あのとき、彼女どんな思いしただろ…
マジ、最低だよね
クズだよね
二度と…あんなこと…」
「当たり前です。もし私にそんなことしたら絶対許しませんから!」
「うん、だね…。その時はどんな仕打ちだって受けるよ…」
「冗談ですよ!ユウキ先輩、そんなことしないの知ってますから…」
顔を上げると、彼女は普段の優しい目で僕を見つめていた。
「じゃあ、今度はいつもみたいに…、いや、いつもよりもっと楽しませ下さいよ。ユウキ先輩に会うの楽しみにしてる人、私の周りにいっぱいいますから。」
僕はひなちゃんを一層強く見つめた。
「1年生女子は全員です!」
「えっ、そうなの?だったらさ…、本格的な女子会やろうよ。美優や同級生に先輩たちも全員誘うからさ。なんか、ひなちゃんにそう言ってもらえたら、急にみんなと話したくなってきた。」
「良いですね!ユウキ先輩と美優先輩が来るなんて言ったら、1年生女子、他の班の子たちも全員来ますよ。他にもユウキ先輩たちと話したいと思ってる人、たくさんいますから。」
「えっ、ホント?嬉しいな!」
「美優先輩来てくれるんだったら、ナマ足見せてもらって、ケアの仕方教えてもらお!」
ひなちゃんは身を乗り出してそう言った。その楽しそうな表情を見ていると救われたような気分になった。
僕もやっと笑顔を取り戻せた。
「ナマ足、好きだね。意外と女の子、好き?」
「女の子、大好きです!だからユウキ先輩みたいな人にときめくんです!」
「あれっ?なんかよく分かんなくなってきたけど…。ま、いいや…
でも、それ良いかもね。僕も美優に教えてもらいたし。」
「じゃあ、そんとき、みんなで美優先輩とユウキ先輩のナマ足、どっちが綺麗か判定しましょうよ。美脚コンテスト開催です❗️」
「ええっ!美優、強敵だな…。でも、『最強リアル女子』に、『成り上がり女子』がどれだけ挑めるか勝負してみるってのもアリだね!」
「おっ、名勝負になりそう。じゃあ、私は自分の願いも込めて、美優先輩の勝利に…
一万円賭けます!」
「なんでよ!そこはウチに賭けるべきっしょ!!」
今日はとっても楽しかった。女子会、絶対やろ。女の子全員に、誰一人漏らさずにそれ伝えるんだ。
それと今作ってる映画のチケット、できたらあの子に送ろう。チケット二枚。彼氏でも、仲のいい友だちでも、もし一人なら一人でも構わない。とにかく、来て欲しい。
来てくれるかな…
彼女の姿、劇場で見つけられたら、どんなに嬉しいだろう…
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