第62話 ユウキが2人…

文字数 1,408文字

「えっ!でも、何でそんな嘘つく必要…」

って言いかけて、ハタと気付いた。

 そっか…
 だよね…
 この服、いくらあのぶっ飛んだお母さんだって、買ってまで着ようとは思わないよね…
 これ、最初っから僕に…

「母親が私に送るのとは訳が違うでしょ?」

 美優はそう言って僕を見つめた。でも、再び視線を反らすと、

「ま、私は送ってもらったことなんて一度も無いけどね」

って、呟くように、いや、まるで “吐き捨てる” ようにそう言った。

 あれっ?美優、どうしちゃったの?
 美優にしては珍しくキツい物言い。それに、普段見せることのない悲しそうな表情。確かにこのときの美優は僕を一瞬ハッとさせた。
 でも、一瞬だった。
 心は自分のことだけでいっぱいだったんだ。それに、悲痛な表情、そんなのは美優に無縁なもの…、きっと気のせいだよ…、そんなふうにしか考えられなかった。
 後になって大反省。

 ただ、美優には申し訳ないけど一旦話を戻すとね…

 確かに、おいそれとこんな可愛い服、息子に送ることなんてできないよね。きっとお母さんの中でも、いっぱい葛藤あったんだろな、って思った。
 その時、ある写真に納められたある光景が思い浮かんだ。

 そうだ!あの写真、一度美優に見てもらお!

「ちょっとこれ見てよ」 

 スマホを取り出して一枚の写真をスクリーンにアップすると、そのまま美優に手渡した。

 美優は、ん?何?ってな顔して受け取った。
 そしたら、やっぱりね…
 そいつを目にするなり

「ドワーッ!!!」

って、美優らしからぬ雄叫びあげて、そのまま後ろにひっくり返った。

 美優、あのさぁ、パンツ丸見えなんですけど…。ミニスカートっての忘れないで…
 でも、やっぱ、誰でも驚くよね。
 僕とお母さん、二人並んで笑って写ってるだけなんだけど。

「な、な、何これぇ?ユウキが二人笑ってる~!」

 美優は、あぐらかいて、ウーン、って唸りながら画面を見つめていた。スカートからむき出しの綺麗な太股をポリポリ掻きながら。
 またパンツ見えそうだけど、それどこじゃ無さそ…

「なぁるほっど~。こいっつぁ~おったまげたぜぇ。これなら、自分の為に買ったってのも、あながち嘘じゃ無いとも言えそうだね…。
 でもねぇ…」

「でも?」

「やっぱ、最初からユウキの為に買ったんだよ。」

 うん、だよね。
 そう思う。

「このお母さんなら、ユウキが似合う服ぐらい一発で分かるよ。きっと、自分も着てみたかったんだろなぁ。ユウキが似合ってるの見たら、お母さん、自分が着てるみたいに思えるんじゃないかな。
 いいなあ、ユウキ、ちゃんと愛されてるね。」

 それからしばらく、とても優しい顔をしながら写真を見つめていた。

「ねえ、ユウキ」

 美優は再び顔を上げるとこう言った。

「 “ユウ子ちゃん” に写真送ってあげようよ。その服着てるの見たら、“ユウ子ちゃん” 絶対喜ぶよ。ユウキ、めっちゃ似合ってるし、私も一緒に写るからさあ。」

 “ユウ子ちゃん”って…

「うん、ありがとう。美優と一緒に写ってるの見たら喜ぶだろなぁ。」

 それからいろいろポーズとって、二人で仲良く写真撮った。僕はお母さんの送ってくれた服着て、美優は僕のスカートはいたり、ワンピース着たりして。
 楽しかった。いっぱい笑えた。良い写真たくさん撮れたから、送ったよ!
 その一枚に、美優が、カラフルな絵文字で、

“初めまして、ユウ子ちゃん!あなたの愚ムスメの天敵、美優でえぇ~す!”

…だって
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