第21話 母、語る

文字数 763文字

 今日家に帰ると、荷物が届いていた。
 お母さんからだった。


 最近、連絡してなかったもんな…


 手紙が添えられている。開けると僕の様子を気遣う言葉が並べられていた。相変わらずの綺麗な文字で。

 久しぶりだな…
 電話、かけてみよっか…
 スマホを手に取る

「あっ、お母さん?荷物届いたよ。ありがと…」

「あら、ユウキ、元気にしてる?」

「うん…」

「良かった…。ねえ、今度さあ、あなた、映画の主演やるんでしょ?」

「えっ!なんで知ってるの?」

「知ってるわよ。あなたのサークルのホームページ、ちゃんとチェックしてるから。」

「あれっ、もう載ってるんだね。やっと最近撮りかかったばかりなのに…」

「観に行くね」

「えっ!観ない方がいいよ!お母さん、絶対ショック受けると思うから…」

「何でよ?」

「だってさ…、あの…、もう知ってるかもしれないけど…、僕…、もう、完全に男の姿じゃないんだ…。そんなの見たらさ…」

「いいじゃない!そんなことより、あなた、すっごい綺麗じゃん!ビックリしたよ!」

 えっ…

「こないだの舞台写真、ネットでたくさん見たけど、私の若い頃にそっくりね。お母さん、めっちゃ綺麗だったんだから。」

 えっ…
 ったく…

「自分で言うかな…」

「あはっ…、でも、あなたの方がずっと綺麗だけどね。」


 僕は本当にお母さんにそっくりなんだ。
 並んで歩くと、姉妹と思われるかもしれない。
 僕が綺麗って言われるのは、間違いなくお母さんに似たお陰だ。
 ただ…

「お母さん…、僕ね、舞台や映画だけじゃないんだ…、毎日ずっと…、学校行くときもね…、今だって…」

「分かってるよ、ユウキ。」

 お母さんは諭すように言った。

「分かってる。あなた、よくやってるよ…」

 それから少し間を置いてから、

「ずっと、たいへんだったね。よく我慢したよね…」

って、ちょっと声を詰まらせながら言った。




 
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