第11話 越える
文字数 1,556文字
店中に変な空気。
そんな中、何ごとも無かったかのように、打ち上げは始まった。
いや、気がつくと始まっていた。
僕も何も無かったかのように振る舞ってはみたものの、心半ば…なんてもんじゃなかった。まったく話が耳に入ってこない。もちろん会話なんて弾むはずもなく、ふと我に帰るとテーブルには美優と憲斗だけが取り残されていた。正確に言うと、二人は僕の傍にいてくれたんだけど…
美優と憲斗はいかにもさり気ない様子で話をしていた。
いつもこの二人は一緒にいてくれるな…
「二人の演技、かっこ良かったよ。あんなの僕には絶対できない…」
二人は会話をやめて僕を見た。
「格好ええやろ。とりあえずやれることやって存在感示しとかんとな。必死やで、ホンマ…」
ホントだな…
憲斗の言い方に少し笑えた。
「僕もこれでも必死なんだけどな…」
「分かっとるわ、そんなん、お前見とったら。」
美優もうなずいた。
「ユウキ良かったよ。私もハラハラしながら見てたけど、堂々とやれてたじゃん。それにマジ綺麗だった…」
そんな時、杏先輩を追っかけて出ていたシオン先輩がちょうど店に戻ってきた。
「やっぱ、駄目だったわ。帰っちまった…」
そう言って苦笑いしながら、僕たちのテーブルに腰掛けた。それからちょっと僕らを見回すと、
「そっか…」
とだけ呟いた。どうやら今の状況を見てとったようだった。
「今日は、特に君たち三人はお疲れさんでした。ありがとう。」
シオン先輩があらたまってアタマを下げてきたので、僕らも返した。
「ちょうど、良かった。みんなに話したいことがあったから…」
話したいこと…?
「今日はちょっとした賭けだったんだ。最後の場面、ユウキに任せるの…。もしユウキに恥かかせるような結果に終わったら、俺、この部を辞めようと思ってた。正直言うとね、ユウキを"人寄せパンダ"的に使おうっていう安易な意図があったのは事実なんだ。だから、ユウキを恥かかせるだけに終わらせたら責任とんなきゃなってね…。
でも、想像超えてたわ。
ユウキ、お前すごいよ。なんか、超えてるね。」
「超えて…ますか?」
「うん。お前からすりゃ、まだまだなんだろうけど、少なくとも超えようとしてるだろ?それも本気で。」
シオン先輩はここでグラスに口をつけ、少し間を置いてから続けた。
「お前のそれさあ、女装じゃないんだね。前から分かってたつもりだけど、今回それを確信した。うまく言えないけど、それ…、本当にお前自身なんだね。」
そう言ってシオン先輩は笑った。優しい笑いだった。
「女装してるやつのことをとやかく言うつもりは無いよ。ただ、お前、そういうのと全然違うんだな。女になりたいとか、男の視線感じたいとか、ファッション楽しみたいとか、まったくそんなんじゃないんだなって分かった。
お前さあ、マジで…
生きるか死ぬか、そんな覚悟でその格好やってるよな。」
僕は真顔でうなずいた。
「はい。必死です。」
みんな笑った。僕もつられて笑った。
「最初はこの格好が楽だからって理由で始めたんです。でも、最近はそうじゃないってことに気付いたんです。もう、この格好じゃなきゃダメってことに…。そしたら気持ち的に楽になった部分もあるんですけど、それゆえの問題もいっぱい起きて…、ホント葛藤だらけなんですけど…」
「だろうね。俺たちが知らないところでいろんなこと抱えてるんだろね…
でもお前、何の違和感も無くサマんなってるわ。だから今日みたいに、もう…ユウキサマったら羨ましくて仕方がないわ、って奴も出てくるんだよ。誰とは言わねっけど。」
そう言って僕らを見回して笑った。
「さあ、誰のことかしら…」と美優がとぼけてみせた。
「ユウキ、お前なら超えられるわ。」
シオン先輩はまた、超えられる、を口にした。
「で、本題なんだけどさ…」
そんな中、何ごとも無かったかのように、打ち上げは始まった。
いや、気がつくと始まっていた。
僕も何も無かったかのように振る舞ってはみたものの、心半ば…なんてもんじゃなかった。まったく話が耳に入ってこない。もちろん会話なんて弾むはずもなく、ふと我に帰るとテーブルには美優と憲斗だけが取り残されていた。正確に言うと、二人は僕の傍にいてくれたんだけど…
美優と憲斗はいかにもさり気ない様子で話をしていた。
いつもこの二人は一緒にいてくれるな…
「二人の演技、かっこ良かったよ。あんなの僕には絶対できない…」
二人は会話をやめて僕を見た。
「格好ええやろ。とりあえずやれることやって存在感示しとかんとな。必死やで、ホンマ…」
ホントだな…
憲斗の言い方に少し笑えた。
「僕もこれでも必死なんだけどな…」
「分かっとるわ、そんなん、お前見とったら。」
美優もうなずいた。
「ユウキ良かったよ。私もハラハラしながら見てたけど、堂々とやれてたじゃん。それにマジ綺麗だった…」
そんな時、杏先輩を追っかけて出ていたシオン先輩がちょうど店に戻ってきた。
「やっぱ、駄目だったわ。帰っちまった…」
そう言って苦笑いしながら、僕たちのテーブルに腰掛けた。それからちょっと僕らを見回すと、
「そっか…」
とだけ呟いた。どうやら今の状況を見てとったようだった。
「今日は、特に君たち三人はお疲れさんでした。ありがとう。」
シオン先輩があらたまってアタマを下げてきたので、僕らも返した。
「ちょうど、良かった。みんなに話したいことがあったから…」
話したいこと…?
「今日はちょっとした賭けだったんだ。最後の場面、ユウキに任せるの…。もしユウキに恥かかせるような結果に終わったら、俺、この部を辞めようと思ってた。正直言うとね、ユウキを"人寄せパンダ"的に使おうっていう安易な意図があったのは事実なんだ。だから、ユウキを恥かかせるだけに終わらせたら責任とんなきゃなってね…。
でも、想像超えてたわ。
ユウキ、お前すごいよ。なんか、超えてるね。」
「超えて…ますか?」
「うん。お前からすりゃ、まだまだなんだろうけど、少なくとも超えようとしてるだろ?それも本気で。」
シオン先輩はここでグラスに口をつけ、少し間を置いてから続けた。
「お前のそれさあ、女装じゃないんだね。前から分かってたつもりだけど、今回それを確信した。うまく言えないけど、それ…、本当にお前自身なんだね。」
そう言ってシオン先輩は笑った。優しい笑いだった。
「女装してるやつのことをとやかく言うつもりは無いよ。ただ、お前、そういうのと全然違うんだな。女になりたいとか、男の視線感じたいとか、ファッション楽しみたいとか、まったくそんなんじゃないんだなって分かった。
お前さあ、マジで…
生きるか死ぬか、そんな覚悟でその格好やってるよな。」
僕は真顔でうなずいた。
「はい。必死です。」
みんな笑った。僕もつられて笑った。
「最初はこの格好が楽だからって理由で始めたんです。でも、最近はそうじゃないってことに気付いたんです。もう、この格好じゃなきゃダメってことに…。そしたら気持ち的に楽になった部分もあるんですけど、それゆえの問題もいっぱい起きて…、ホント葛藤だらけなんですけど…」
「だろうね。俺たちが知らないところでいろんなこと抱えてるんだろね…
でもお前、何の違和感も無くサマんなってるわ。だから今日みたいに、もう…ユウキサマったら羨ましくて仕方がないわ、って奴も出てくるんだよ。誰とは言わねっけど。」
そう言って僕らを見回して笑った。
「さあ、誰のことかしら…」と美優がとぼけてみせた。
「ユウキ、お前なら超えられるわ。」
シオン先輩はまた、超えられる、を口にした。
「で、本題なんだけどさ…」
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