⭐ 美優との一夜③(あんな写真、私には一枚も無い)

文字数 938文字

 美優は少しずつ落ち着きを取り戻してきた様子だった。さっきの震えはもう収まっていた。

 良かった…

 僕は背中をさするのをやめ、今度はゆっくりと手のひらで叩くような仕草に変えた。小っちゃいとき、無性に悲しくて泣いていた時、母親にそうしてもらったように。何がそんなに悲しかったのか今ではもうすっかり忘れてしまったけれど、そうしてもらえると安心して、いつの間にか泣き止んでいたんだ。

 母親にしてもらったように、美優にも上手くしてあげられてるかな…、なんて思いを巡らしていた時、美優がポツリと、

「ユウキが本当のお母さんだったらなあ…」

って呟いたんだ。

 エッ!僕が美優のお母さん?
 
一瞬、手が止まった。意外過ぎる言葉に美優の顔を見つめた。
 でも、美優の目や口元が前の穏やかな様子に戻っていたのを見て、もう一度強く美優を抱きしめ、また背中を叩き始めた。

「僕ね、小っちゃい頃、よくこうやってお母さんに抱っこされて、よしよしってされてたんだ。美優には隠す必要無いから言うけどね、僕、見ての通りの甘えん坊で泣き虫だったから、そうしてもらって泣き止んでたんだ。僕のことだから、泣く理由も無いのに、ただそうしてもらいたから泣いてたんだろうね、きっと…。
 あのさ、ひょっとしてドン引きされてる?」

そう言って笑いかけると、美優は、

「ドン引きはしないけどさ…、ちょっと…、引くね」

と言ってクスクス笑った。

「でも、そうやって泣いてるユウキ、可愛いかっただろなぁ…」

そう言って僕を見つめる美優の目は、普段通りの優しい目だった。僕もそんな美優にホッとして笑い返した。

「でもさ、そうしてもらえるだけで安心して泣き止んでたから、その時のことを思い出しながら美優にもやってたんだ。」

「そう…、ありがとう。ユウキ、やっぱ、大好きだわ…」

美優はまた強くしがみついてきた。そして、

「ユウキか…、ユウキのお母さんが、本当のお母さんだったら良いのになあ、最高だろうなあ…」

って、また不思議なことを言った。

「ユウキはお母さんにちゃんと愛されてるもんね。さっきの写真見れば、お母さん、ユウキのこと大好きなんだって、直ぐに分かるよ。二人とも幸せそう。あんな写真、私には一枚も無い。私は親に愛されたことなんて一度も無いから…」

 えっ!
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