第40話

文字数 1,115文字

 モートは急いでノブレス・オブリージュ美術館の正門を出て、オーゼムを探しにイーストタウン行きの路面バスを探した。
 正門から反対側のバスの停留所で、偶然、聖パッセンジャーピジョン大学付属古代図書館の館長のアーネスト・グレグスンに会った。アーネストはヘレンとも懇意な初老の男性だったことをモートは知っていた。
「やあ、モート君。すっかり立派になって」
 アーネストはモートのことを知っている風だった。
「こんにちは。アーネストさん」
 今年で63歳になるアーネストは、あまりにも頑健な身体を持っていて、図書館の館長というよりも、歴戦のプロボクサーとも見えた。
 シンシンと降る雪の空からは、日差しがほんの僅かに射しこんでいる。ホワイト・シティでは今日のような日はいい天気ともいえるのだ。

 白い息を吐いて、アーネストが言った。
「ヘレンさんから君の話を聞いたよ。モート君が追っているグリモワールは、実は七冊あるんだ……1589年に書かれたそのグリモワールは、それぞれ七つの大罪にちなんだ名前と強力な悪魔の眷属を召喚できると言われているんだ」
 アーネストの声は微かに震えていた。
「七冊?! すぐにヘレンに知らせないと!」
 モートは慌ててバスの時刻表を見たが、けれども、まだ30十分も待ち時間があった。そこで、近くにある「ポット・カフェ」まで全速力で電話を借りに行った。

 Gluttony 3

 アリスはレストランへとシンクレアと共に渋々、クリフタウンへ向かうことにした。美術館を見学してからでもいいのだが、シンクレアは決して裕福ではなかった。アリスが向かう。聖パッセンジャーピジョン大学の近くにあるレストラン「ビルド」は、ホワイト・シティで一番有名で、中でも羊肉のソテーが何よりも美味しかった。
 アリスはたまに病院のあるクリフタウンから足を運んでいたが、シンクレアとモートは一度も入店していないだろうと、今日に誘うことにしたのだが。今回は親友のシンクレアと食べることになった。
 久しぶりの羊肉の味を思い出し、期待してシンクレアを連れだった。
 ノブレス・オブリージュ美術館から道路の反対側のバスの停留所へ行くと、そこにはモートの姿はなく。変わりによく行く図書館の館長のアーネストがいた。アーネストは筋骨逞しい身体でこちらにお辞儀をした。
「こんにちは。お嬢様たち。クリフタウンへ? そうですか。それはまた……。私はこれからなまった身体を鍛えるため。ヒルズタウンのホテルの温水プールで水泳です」
そして、アーネストはモートは急いでどこかへと走って行ったとだけ言った。
「そういえば、今日は日曜日ですもんね。お休みなのですね」
 アリスは白い息を吐いて空を見上げた。
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登場人物紹介

モート・A・クリストファー

アリス・ムーア

シンクレア・クリアフィールド

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