第92話
文字数 681文字
モートは前に世界の終末を回避して、ここホワイトシティを救った英雄だった。
車窓からの風のない雪の降る景色に急に光が射しこんできた。ここホワイトシティでは珍しいことだった。光の下を二十を超える鳩が遥か西の方へと飛んでいった。
「まあ!」
アリスは今の何もかもの幸福な出来事によって、感極まって涙が滲んだ。次第に手首の傷がほんの些細なことのように思えてきた。
アリスはモートのことをまた考えた。
いつも無口で感情的になることがないが、頭が良く対人関係ではある種のとても奇妙な強さを持っていた。
そんなモートはアリスにとって素晴らしいフィアンセだった。
アリスとシンクレアがバス停から降り、聖パッセンジャービジョン大学の急な石階段を登るころには、……何故か天空が真っ赤に染まっていた。アリスは不思議に思って空を見上げた。シンクレアはそれでも陽気に話し掛けてくる。
空から何か大きなものが地へと落ちてくる。それは赤い色の塊だった。その次は多くの赤い水滴が降りだした。まるで空がガラスか何かで傷つけられたような光景だった。
ホワイトシティ全体が一斉に血の雨で真っ赤になり出した。
「あら? ねえ、アリス……空が真っ赤よねえ? それに赤い雨……」
激しい眩暈に襲われ卒倒しそうになったアリスは、聖パッセンジャービジョン大学の片隅で、モートの姿を偶然見つけた。モートは一人。壁に寄り掛かりながら何かを熱心に読んでいたが、空の異変に気付き、どこかへと走り去っていった。
きっと、この地上へと再び舞い降りた天使のオーゼムのところだろう。
アリスは気を失う寸前に……そう思った。
車窓からの風のない雪の降る景色に急に光が射しこんできた。ここホワイトシティでは珍しいことだった。光の下を二十を超える鳩が遥か西の方へと飛んでいった。
「まあ!」
アリスは今の何もかもの幸福な出来事によって、感極まって涙が滲んだ。次第に手首の傷がほんの些細なことのように思えてきた。
アリスはモートのことをまた考えた。
いつも無口で感情的になることがないが、頭が良く対人関係ではある種のとても奇妙な強さを持っていた。
そんなモートはアリスにとって素晴らしいフィアンセだった。
アリスとシンクレアがバス停から降り、聖パッセンジャービジョン大学の急な石階段を登るころには、……何故か天空が真っ赤に染まっていた。アリスは不思議に思って空を見上げた。シンクレアはそれでも陽気に話し掛けてくる。
空から何か大きなものが地へと落ちてくる。それは赤い色の塊だった。その次は多くの赤い水滴が降りだした。まるで空がガラスか何かで傷つけられたような光景だった。
ホワイトシティ全体が一斉に血の雨で真っ赤になり出した。
「あら? ねえ、アリス……空が真っ赤よねえ? それに赤い雨……」
激しい眩暈に襲われ卒倒しそうになったアリスは、聖パッセンジャービジョン大学の片隅で、モートの姿を偶然見つけた。モートは一人。壁に寄り掛かりながら何かを熱心に読んでいたが、空の異変に気付き、どこかへと走り去っていった。
きっと、この地上へと再び舞い降りた天使のオーゼムのところだろう。
アリスは気を失う寸前に……そう思った。