第56話

文字数 1,302文字

 店内はアリス一人だけだった。
 給仕も店主もお客もいない。
 それでもアリスはお気に入りの席で、モートを待ち続けた。
「すまない。待たせたねアリス」
「一体? なんだったのです?」
 いつの間にかモートが真正面に立っていた。
 モートは席に着いて、何事もなかったかのように食事を楽しんでいる。
「料理も収穫も今日は本格的だ……」
 モートと食事を再開したアリスの耳にモートの独り言がいつまでも残っていた。

 Envy 5


 モートはアリスと一旦別れることにした。
 真っ白な雪が敷き詰められた道路を、真っ赤な絨毯に変えるほどの大量の狩りの時間。収穫祭が迫ってきたので、モートは微笑んだ。
 レストラン「ビルド」からアイスバーンの大通りへとモートは向かった。アリスは裏口から「グレードキャリオン」に向かっているはずだった。ここホワイト・シティでも珍しい心底寒い日だった。


 モートはあの首を狩っても生きている猿の頭の人間を疑問に思っていた。他は黒い魂の人間だった。最初は猿はグリモワールからの召喚だと思った。けれども、近くにはグリモワールの本がない。本を使う者もいない。そして、確実に自分だけを集中して狙っていた。
 猿は殺傷力の強い大剣と、銀の大鎌でも壊せないほどの優れた盾。そして頑丈なフルプレートメイルにそれぞれ身を包んでいた。
 黒い魂の人間は全て銃を所持していた。
 それに、猿は首を狩ることが困難だった。ほとんど中世の戦士級の強さなのだ。
 残りのグリモワールは、後は怠惰、憤怒、傲慢、嫉妬の四つだが、何者かが、やはりあの猿の召喚に、その中のどれかを使ったのだとモートは考えることにした。
 この自分を狙う猿の大軍の動機は? 
 何故か相手が切羽詰っている感じだった。
 襲ってくる黒い魂の人間の誰か一人に聞いてみないといけないのだろうか? 
 オーゼムはジョンの屋敷だ。
 
…………

 今は午後の21時頃。
 モートは血塗れになって狩りをし続けていた。
 ホワイト・シティの全ての道路が鮮血で染まる頃には、天空の白き月の仄暗い空に、漆黒の髑髏が浮かび上がった。それは空中を漂い。まるで、モートの狩りを空の上から満足気に眺めているかのようだった。

 真夜中に死が舞い落ちる。

 猿の軍勢はもはやホワイト・シティ全体を襲うかのような勢いになっていた。
すでに街の人々は次々と斬り殺され。人々の悲鳴や怒号が聞こえる只中。ヒルズタウンの一角にある猿の大軍の総司令部のような位置にモートは向かって行った。大通りから川を渡って陸橋に出ると、そのど真ん中に飛び込んだ。  
 すぐさま猿の剣戟がモートを襲う。寸でで躱しながら、モートは首を狩り続けた。
だが、モートの真の狙いは猿の胸部。

 心臓だった。

 猿の首を刈り取ると次は胸を狙い銀の大鎌で、胸部にでかい穴を空けた。猿は激しく吐血し、次一匹、一匹と倒れだした。しばらくして、モートが狩り続けていると猿の軍勢が劣勢となりだした。
 おびただしい鮮血と濁った血が真っ白な地面を染めだした。
 どれだけ時が経ったのか、モート自身は気に留もめなかった。
 猿の軍勢が全滅すると、モートは次に隣のジョン・ムーアの屋敷へ向かった。
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登場人物紹介

モート・A・クリストファー

アリス・ムーア

シンクレア・クリアフィールド

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